[携帯モード] [URL送信]
ミステリーデスゾーンにて


 
 * *
 
 
 人間界 ヨーロッパ・スイス連邦 人間に知られぬことのない樹海にて。
 
 
 真昼間であろう時間でも、日中薄暗い樹海を歩いていると夕暮れの刻なのかと疑念を抱いてしまう。いや夕暮れの刻でも、ここまで薄気味悪くないだろう。
 嫌気の差してくる景色を瞳に映しながら風花はネイリーやカゲぽんとミステリーデスゾーンを探し、東の方角を歩いていた。正確に東の方角は分からないが、辰之助がくれたエグザクトコンパスがミステリーデスゾーンの放出する魔力に呼応しているのだ。それを頼りに道を進めて行けば自ずと顔を出してくれる。

 食事でエネルギー補給をし俄然やる気を出しながら風花はザクザクと獣道を突き進んでいた。
 人の手を加えられていないため、足場はとても不安定ではあったが魔界でも同じよう土地があったため、風花は余裕があった。それよりも人間界生まれ、人間界育ちの魔界人の方がやや参っている様子。

「これは酷いな」

 道の険しさに文句を垂れるネイリーは生活設備が充実していたところで暮らしていたため、険しい道のりに顔を顰める一方。エグザクトコンパス片手に先頭を歩いていた風花は足を止め、少し休もうかと彼を気遣った。軽くネイリーは息が上がっていたのだ。

 しかし大丈夫だとネイリーは微笑する。


「ここで野宿なんてごめんだからな。先を急ごう、フロイライン」

  
 少しくらい休憩しても大丈夫なのに、そう思いながらも吸血鬼の気持ちを酌んで先を急ぐ。
 
 口数も少ないまま一行が先へ先へと歩いていると、突然茂みが大きく揺れた。二人は足を止める。また刺客か、それともクマか、はたまたパライゾ軍か。

 身構えて揺れる視界を見据えていると、のっそりそこから青虫らしき青々とそして丸々とした芋虫が出てきた。ここで注目して頂きたいのは茂みが揺れる、というところである。本来、昆虫というものは手の平サイズ。葉や木の枝、木の幹なんかに生息している小さな生き物。
 しかるが故に茂みが揺れるなんて現象が起きることないのである。

 しかし二人の目前で茂みが揺れ、芋虫が出現した。
 
 もうお分かり頂けると思うが出現した芋虫は二人が絶句するほど大きかった。二人からしてみれば小さいに変わりはないが、背丈半分ほどの大きさはある。しかもピィっと鳴くものだから芋虫とは『ピィ』と鳴く生き物だったか、自分の培ってきた知識を疑いたくなる。
 「でかいねぇ」「でかいな」芋虫の大きさに目を点にするしかない二人。カゲぽんに至っては身の危険を感じたのか、今まで風花の肩にいたくせに、さっさとネイリーの影の中に隠れてしまう始末。
 
 芋虫は風花達に興味を持ったのか、のっそりのっそり歩み寄って来る。

 当然二人は退く。巨大な芋虫が向かって来たのだ。逃げない奴はまずいないと思う。
 しかし芋虫は風花達に興味を示したわけではなく、二人の後ろに生えていた木に興味を示していた。のそのそ木にしがみ付き、糸を吐き始める。どうやらこの芋虫は蛹(さなぎ)の準備ができる木を探していたようだ。

 異様な光景を目にしながら二人はその場から立ち去る。暫く沈黙が続いた。二人とも混乱していたのだ。
 

「ウム…樹海の環境は昆虫に打ってつけなのだろうか?」

 
 いたく真面目に感想を述べるネイリーだが、まだ酷く動揺している模様。樹海に暮らせば皆、ビッグサイズになるのではないかと真剣に思考を巡らせていた。

 風花は風花で芋虫をあんなにも至近距離で、しかもビックサイズで目の当たりしてしまったことにショックを受けていた。正直な感想を述べると風花自身、昆虫系は嫌いな類に入る。ピィと可愛らしく鳴こうが相手が相手。とにもかくにも、もうあんなサイズの芋虫には遭遇したくない。

 風花は芋虫という悍ましい生物を思い出しては身震いをしていた。
 

 揃って動揺の念を抱いていると、向こうの視界に日の光が見えた。樹海は分厚い雲で覆われているのだが、そこだけ日の光が差し込んでいる。
 
 二人は顔を見合わせると急いで日の当たる場所へ駆けた。人を阻むような草木を掻き分けるように突き進んだ先に待っていたのは、巨大な湖水。湖上の水面が日の光を受けて暖かな煌きを帯びている。それはまるで春の日溜りを感じさせるような、ホッとする暖かさの煌き。

 湖岸には花畑。選り取り見取りの花々が咲き乱れている。赤や黄や白は勿論、青や紫、虹色など人間界では見られぬような花々が沢山咲いていた。



 

[*前へ][次へ#]

12/31ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!