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09-11


 

「聖界はともかく、親友にくらい信用を置いてくれてもいいんじゃないか?」
 
 
 ったく、迷惑も何もお前、常日頃から俺に迷惑掛けてるじゃないか。
 自覚してるなら少しくらい自分一人で書類片付けしてくれないか? お前ときたら、いーっつも俺に手伝わすだろ? それと同じだ。ま、手伝えるところは手伝ってやるって。一人でどうこうできるもんじゃないだろ。

 それに俺とお前の間に交わした約束、忘れちまったか? 馬鹿なことを思う前に相談しろって約束。
 一人でグルグル考えるから馬鹿なことを思っちまうし、行動に起こそうとするんだよ。迷惑も何も俺達の間にはないって。親友ってのは大きな迷惑を掛けてナンボの存在。俺はそう思ってる。親友だからこそ迷惑掛けるんだよ。許されてるってヤツ?
 
「ま、どーにかするのを考える前にまずは柚蘭さんのところに戻ろう。彼女に砂月を任せて追い駆けてきたんだぞ。俺って優しいな。俺の優しさに免じて今度奢ってくれよ」
 
 いつもの調子で話し掛ければ、呆気に取られていた親友の表情が崩れる。「悪い」何度も詫びを口にして、額に手を当てる螺月は悔しそうに吐露した。
 聖界のいいように振り回される自分が情けない。上の命令に抗えない自分が情けない。何もできない自分が惨めだ。本当はこれからどう行動を起こせば分からない。明日にでも弟が死んでしまうかもしれない、…いや、死の階段を確実に上り始めている。それが恐い。誰かに助けを求めたいほど恐い。恐怖の念だけが自分の心を支配する。
 
 身を震わせ気丈を崩す親友に朔月はそうだな、と相槌。
 恐怖の念に駆られている親友に安易な言葉は掛けてやれなかったが、これだけは言ってやりたかった。
 

「螺月、お前は菜月くんに兄貴って認められたんだ。俺は信じてたよ。今のお前の姿を知れば、菜月くんの心も関係も変わるってずっと思ってた。お前はお前と柚蘭さんの力で、菜月くんの凍てついた心を溶かしたんだ」

「けどっ、ちっとも守れてねぇじゃねえか。俺っ。弟に、何も」


「馬鹿。お前のやって来たことは無駄じゃない。現に菜月くんはお前を家族だって認めたじゃないか。過去のお前じゃない、今のお前を取ってくれたんだぞ。お前の積み重ねてきた努力は何一つ、無駄になってないじゃないか。守れていない? そんなことない。お前はこの二ヶ月、柚蘭さんや菜月くんを守っていた。そして二人に守られていた。そうやって支え合ってきた…、姉弟だったろ? 今回のことも、今からだ」


 弱々しくも情けない面を見せている、果敢ない親友の両肩を掴んで朔月はしっかりと視線を捉える。
 夢も希望もなくなったような、絶望に染まりかけている親友の瞳に目で笑ってやり、「今から守るんだよ。兄貴」遅くない、何が何でも守ろうと動くんだ。お前はそういう奴じゃないか。お前は誰よりもブラコンで、それを通り越して過保護で、弟のことで一喜一憂して。いつも兄貴として何ができるか考えて…、二度と悔いのないように、過ちを犯さないようにって動く奴じゃないか。

 ―…どうすればいいか分からないくらい苦しい時だってある。誰かに寄り掛かりたい時だってあるさ。
 じゃあ、そんな時は頼ればいい。鬼夜族一変わり者で鬼夜螺月と無二の親友の、この鬼夜朔月に。


「螺月、お前は独りじゃない。まだ味方はいる。俺も、そのひとりさ。忘れないでくれよ」
 
 
 親友は糸が切れたように涙を流し始めた。
 それを隠すこともせず、拭うこともせず、昔から知る見知った素顔で嗚咽を漏らす。
 「バッカみてぇに辛くて」現実に振り回されて、どうしようもなくて、誰かに縋ることもできなくて、俺は無力だ。朔月、俺は家族と幸せになりたかっただけなんだよっ。二ヶ月間、すっげぇ楽しくて、これからもこの生活が続けばいいって思ってたからこそショックで。


「四天守護家なんざっ…、鬼夜になんざっ…生まれなきゃ良かった。そしたら俺達家族っ、もっと、別の道があったに違いねぇ…っ」
 

 両膝を折って、大地に蹲る天使は血反吐を吐くように苦言を漏らした。
 「螺月」片膝を折って肩を抱くと、親友は惜しみなく咽び泣き始める。大地に爪を立て、表面に引っ掻き傷を作り、その感情の雫で大地を濡らす。流れるそれが、悔し涙なのか、嬉し涙なのか、それとも別の感情の涙なのか、朔月には判断が付かなかったが、できるだけ顔を見ないよう気遣った。

 周囲から白眼視されていても涙一つ見せなかった親友が、今こうして家族を喪うこと怖じ涙を流している。守れなかった悔しさを吐き出している。親友は本当に弟想いな兄貴だ。同じ兄の立場にいる自分も彼を見習わなければ。
 
 朔月はトントンと気を落ち着かせるように螺月の肩を叩き、ただひたすら傍にいてやった。
 胸につっかえていた物を吐き出すように落涙を流し、声を上げる螺月の傍に。


 心中で語り掛ける。
  
  
 
 なあ、螺月。

 自責(十八番)とも今日でお別れだな。
 お前は過去じゃなくて未来を向かなきゃいけないんだ。振り返ってる場合じゃないぞ。そうだろ。菜月くんはお前の面影じゃなくて、今のお前を選んだ。だから家族だと思った。―…ずっと夢見ていた兄貴になれる。いや、戻れるんだ。過去でもう嘆く必要ないよ。


 もうお前は胸張って異例子の、菜月くんの兄貴だって言えるんだ。

 こんな時に言うのもなんだけど…良かったな、よかったな、螺月。





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