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09-06


  

「二人と話そうと思ったのは、今の上層部をあまり信用しない方が良いと忠告するためです。これはあくまで推測ですが異例子の情報漏洩は多分」

「鬼夜幹部…ということですか?」

「あくまで推測です。幹部くらいの地位を持っていれば漏洩も簡単に消せますからね。プリズン行きのことも菊代さまのご判断ではなく幹部が下した判断。何かと気を付けた方が良いと思われます」


 ユベルは哀れむ顔を作る。
 
 螺月はカッと頭に血が上った。下唇を噛み締め握り拳を作る。
 何だよそれ、弟をプリズンに入れたのは今の菜月を消すためか。弟が聖界に刃向かうかもしれない危険な将来性とやらを持っているからか。四天守護家の不利にならない程度の情報を漏らして、より“聖の罰”を受けさせやすい環境を作り上げるためか。自分達の安定した地位を確保したいためか。
 私利私欲にまみれているではないか!
 
 ユベル大神官の言うとおり、あのままひっそりと暮らしていれば、異例子の存在は明るみに出ることは無かった。自分達はあのまま幸せに暮らせていた。弟は何も危険なことをしない。それは自分達、兄姉が誰より知っている。
  
 昔から鬼夜上層部は自分達に冷たかった。母も周囲の厳しい冷風に打ちのめされ、今、入院している。
 それでも仕方が無いと割り切っていた。弟のことがあるから仕方がないと割り切っていたが、今回ばかりは割り切れない。四天守護家に、いや、聖界に対する怒りが募る。

 許せない。


(どうして俺等ばっかこんな目に遭うんだよ…、クソッ)

 
 そっと姉の横顔を盗み見る。姉は静かに珈琲を啜っていたが瞳には怒気が宿っていた。自分と同じ気持ちなのだ。


「今、弟さんとは…西プリズンにいるとお聞きしましたが連絡等は?」


 遠慮がちにユベルが質問を投げ掛けてくる。会うことも許されていないのだと柚蘭は言葉を返す。
 
 するとユベルは自分が面会の許可に一つ掛け合ってみようかと話を切り出してきた。これでも自分はそれなりの地位にいる神官だ。場合によってはこっそりと異例子に会わすことも可能だと言う。
 申し出に二人は瞠目。それは確かに嬉しいことだが、ユベル自身に迷惑が掛かる。鬼夜幹部に見つかればタダでは済まないだろう。しかし彼は大したこと無いと笑って見せた。
 

「見つかれば確かに降格もあるでしょうが、地位なんてものはただの飾り。地位で人を幸せにできるかといえば、それは否です。地位があっても私の力なんて少人数の天使達を幸せにできるかできないか。
だったら地位なんてものに囚われず、理不尽な理由で困った者がいれば手を差し伸べる。それが人情というものではないでしょうか? 聖界を先導する者は本来、そうあるべきなのだと考えています」 


 なあに、私のすることはあなた達に弟さんを会わせるだけのことです。大したことはできないですが一役買いましょう。
 
 微笑むユベルに鬼夜幹部に聞かせてやりたい言葉だと螺月は思う。同時に苦手意識を持っていたことを恥じた。ユベル大神官は話してみると、結構好い性格の持ち主だ。もう少し苦手意識を無くすよう努力しよう。
 
 ユベルは後日、伝書鳩で連絡すると二人に告げて帰って行った。
 
 実はまだ仕事が残っているらしく、中央大聖堂に帰らなければならないらしい。自分達のために話す時間を設けてくれたようだ。
 二人はユベルに何度も礼を述べた。希望の光はまだ残っている。気持ちが随分軽くなった気がした。




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あきゅろす。
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