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09-05


  

「今日ね。菊代さまと直談判しようと中央大聖堂に行ったの。鬼夜幹部はちっとも取り合ってくれないから。だけど会えなくて…、そしたらユベル大神官が私に声を掛けてきたの」

 
 どうしても自分達に話があるのだとユベルは告げてきたのだ。しかも聖堂では話せないことだと言うので、わざわざ家まで赴いてもらった。
 淡々と語る柚蘭は三人分の珈琲を並べ、席に着いた。二杯目となる温かな珈琲にこんもりと砂糖を入れながら、螺月は何の用だろうとユベルを一瞥。滅紫色の瞳とぶつかり、螺月は居心地が悪くなった。

 話を切り出したのはユベルだった。
 再三突然の訪問に詫びを告げ、まずは弟のことについて話題を出してきた。あまり触れて欲しくない話題だったが、ユベルは意外なことを言ってきた。
 

「今回の弟さんのプリズン行き。そしてマスコミへの異例子帰還の漏洩。あなた方にとってとても気の毒な報告を受けたのですが、私は疑問を抱きました」

「疑問、ですか?」


 柚蘭はおずおずと聞き返す。一つ頷いてユベルは話を続ける。


「おかしいと思いませんか? 北大聖堂事件は確かに四天守護家を、いえ聖界全土を揺るがした大事件です」


 ですが、だからと言って異例子のプリズン行きは勿論、異例子の情報が漏洩するなど不自然極まりない。

 鬼夜族がどう異例子を思っていようとも外部に情報を漏らすなど言語道断な行為。すぐにばれるでしょうし、場合によっては自分の首が飛びます。鬼夜族が軽い口で外部に漏らしたなど考えにくい。

 勝手ながら此方で異例子の情報を仕入れさせて頂きましたが、あなた方は異例子と共に聖保安部隊の監視下で暮らしていたのですよね? どういった事情で監視下にいたのかまでは存じ上げませんが、町から離れた場所でひっそりと暮らしていたのですから、継続して暮らしていけば良い話。
 世間では異例子は人間界に身を置いていることになっているのですから。

 異例子の名は聖界ではとても有名ですが、わざわざ彼の生存を調べようなど思いません。四天守護家だって彼の名を曝け出せば、世間が騒ぎ立てると見通しが付いていた筈。
 
 幾ら危険視しているとはいえ、北大聖堂事件で騒然としている最中、異例子をプリズンに入れるなど彼の存在を明るみに出すも同じです。
 
 極秘に入れたとしても今のこの騒動ではばれるのも時間の問題。
 なにせ聖界は相応しくない天使や聖人、所謂反聖界派を片っ端から捕まえている状態です。マスコミもそれに食らい付いてくるでしょう。異例子の存在がばれる危険性は高くなる。
 
 なのに鬼夜幹部が異例子をプリズンへと投獄した。しかも菊代さまの御判断ではなく、鬼夜幹部の判断で。同時期異例子の情報が外部に漏洩した。

 私は昔から四天守護家に仕えている身の上ですが、四天守護家は度々不可解な行動を起こしている現状を目にしてきました。理不尽な理由で“聖の罰”を受けている者も沢山見てきました。
 
 今回プリズンに投獄された中には、僅か七歳の少年がいます。少年には右翼がありません。
 それだけで投獄されました。完全な天使ではない彼は既に“聖の洗浄”を受けることが決まっています。後日、中央大聖堂のプリズンに搬送される予定です。理不尽でしょう? たかだか右翼が無いくらいで完全な天使となるために“聖の洗浄”を受ける。
 
 完全な天使なんて口実でしょうね。
 
 本当は聖界に刃向かうかもしれない危険な将来性を持っているから“今の彼”を抹消する。より聖界に忠誠心を持ってくれる天使になるよう作り上げるんです。
 何より上層部は四天守護家の地位の確保を重視している。汚点は塗り消したいのですよ。
  
 残念ながら、それが四天守護家の今の上層部の考え方です。
 



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