09-03
これ以上、向こうの言いなりになるのは癪だったのだ。
聖保安部隊の手によって弟と引き離されてしまった。自分達はただただ大人しく聖保安部隊の監視下で暮らしていたというのに。
螺月は聖保安部隊と鬼夜の上層部に強い怒りと憎しみを覚えるようになっていた。四天守護家自体に不信を抱きつつもある。
入院していた時、螺月が強く検査を拒絶したため、隊の長も気持ちを酌んだのか「後日に検査を受けろ」とだけ言葉を掛けてくれた。落ち着いたら長が赴くからと付け足して。
長・鬼夜菊代は慈愛溢れた大女神。祖父とは旧友で何かと母の容態を気に掛けてくれる器の大きい天使なのだが、今の螺月は長さえも半信半疑だった。それだけ今回の出来事は螺月にとってショックが強かったのである。
(ぜってぇ検査なんて受けてやんねぇ。異例子と同じ力がなんだ。俺はあいつの兄貴、同じ血が流れてる。そして俺とあいつはあの野郎に作られた新種族。同じ力が宿って当然なんだ)
ゴクリ。喉を鳴らしてスープを飲み干すと、螺月はパンを引っ掴む。
思い出しただけでもムカムカしてきた。なんで自分達があんなやり方で引き離されなければいけないのだ。自分達は大人しく聖保安部隊の監視下にいたではないか。
ムシャムシャではなくガツガツと食事を進める螺月に、朔月は思わず声を掛ける。
「お、おい螺月。さっき俺は沢山食えって言ったけど、そんな無茶食いをしろだなんて言ってないぞ。もう少しペースを落とせ。体に毒だから」
「俺は健康だっ! 誰が検査なんか受けてやるか!」
短気を起こす螺月は朔月の手に持っていたオロコンジュースの入った瓶を分捕り、一気飲み。
朔月が呆気に取られていると、「いたいた!」螺月のもとに駆け寄って来る一般天使達。我先にと駆け寄って来る天使達は皆、記者なのだろう。あっという間に螺月を取り囲んで質問攻め。
「異例子さんのことなんですけど、貴方は御家族とお聞きしましたが。弟さんなんですよね? 絶縁状態とお聞きしましたが…、最近は御関係が良好だとか! どう復縁したのかお話を」
ピキ、螺月のこめかみに青筋が一本立った。
てめぇ等、デリカシーってのを知らないのか。復縁? 随分関係は良好になりました、が、まだ家族とは認められていませんが何か?
「人間界に身を置いていたとの情報ですが、いつ頃、聖界に戻ってきたのですか? また人間界での異例子の様子を存じ上げているのなら、お話頂ければな…と思うんですけど」
ピキピキッ、螺月のこめかみに青筋が二本立った。
菜月がいつ頃戻って来たっていいじゃねえか。こっちの勝手だろ、おい。人間界にいた頃のあいつ? 語ると俺が泣きたくなるっつーの。だってあいつ、人間界で悪魔と恋人ッ…、あー泣きてぇ。
「異例子さんは最近戻ってこられたそうですが、戻って来た後、あなた方、御兄姉のもとにいたと情報を仕入れているのですが本当ですか? でしたら、どういう暮らしっぷりだったのかを簡単でいいのでお話下さい。やはり少し違いますか?」
ピキピキピキッ、螺月のこめかみに青筋が三本立った。
一緒に暮らしてたんだけど引き離されちまったんだよッ…、安定してきた暮らしを壊されちまった。てか少し違うって質問はなんだ? ああん? あいつを異端扱いしてんじゃねえぞ。
螺月の堪忍袋の緒は既に切れかけていた。
答えてください。さあさあさあ。遠慮なしの質問攻めに「るせぇ!」と大喝破。
シンと静まり返る食堂の空気など気にもせず、螺月はテーブルを叩いてトレイを片付けに腰を上げた。「あ、待ってくれよ」朔月は食べかけのサンドウィッチを片手に持参していた紙袋を持って螺月の後を追う。
去り際、朔月は振り返り笑顔で記者達にニッコリ。
「螺月。今日は特別虫の居所が悪いんだ。構わないでやってくれ」
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