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募る聖界不信と兄弟愛



 深夜。
 とある二人の天使は看守の格好をして西プリズン(仮牢)に潜り込んでいた。
 
 一人は与作(よさく)、一人は栄吉(えいきち)と名を持つ一般天使で記者なのだが、彼等は現在進行形で潜入取材を試みている。見つかればその場で捕まる可能性も出てくる危険をも冒し、看守や聖保安部隊の目を掻い潜ってプリズンに足を運ぶにはワケがあった。
 階段を二段越しに上り、二人はプリズンのある通路まで辿り着く。
 
 そっとプリズンの一つを覗き込んでみる。
 
 プリズンにはそれぞれ十人ずつ天使や聖人が収容されているのだが、牢内は静かだ。閑寂した空気が漂っている。
 各自並列に並べられたベッドの上で思い思いの時間を過ごしているようだが、過ごし方が廃人のように虚ろにベッドに横たわるか、ジッと息を潜めるように腰掛けているか、神に祈りを捧げているか。
 見ているだけで気鬱になりそうだ。息が詰まりそうともいえる。
 
 牢内に目的人物はいないようだ。
 与作は首を横に振り、栄吉に次の場所へ移ろうと指で指示。栄吉は頷いて次のプリズンを覗き込む。

 こうして次々にプリズンを覗き込んでいくと、最奥のプリズンで奇妙な光景を見つけた。
 そのプリズンは他のプリズンと比較すると一回り牢内が小さく狭い。それでも五人は収容できるであろう。しかしそのプリズンには一人しか収容されておらず、まるで隔離されているよう。
 
 何より異様なのはベッドの上で四肢を投げ出し、眠りについている収容人の手足には枷が嵌められていた。他の収容人にはない光景。あの少年に間違いない!
 二人は顔を見合わせ、小さく頷くと確証を持つために名を呼んだ。

 
「異例子くん。異例子くーん」


 栄吉がグッスリと眠りについている少年を呼ぶ。何度か少年を呼ぶと、寝ている彼はピクリと反応した。
 重たそうに瞼を持ち上げ、「誰?」不機嫌そうな声で返す。

 ビンゴ! 彼が今、世間を騒がしている噂の異例子だ!
 
 パチンと指を鳴らす栄吉と与作。しかし同時に二人はローブの襟首を引っ掴まれる。
 表情を強張らせ、ぎこちなく顔を上げれば片眉をつり上げて冷然とした顔を作る聖保安第三隊隊長・郡是忍がそこにはいた。若き鬼隊長は「これで三組目か」と、今まで潜入取材で捕まえた記者達の組数を口にし舌打ち。与作と栄吉を異例子のいるプリズンから引き離す。

 まだ何も答えてもらっていない! 焦る記者達に自分の身の心配をしろと郡是は憮然と言い、声音を張って部下達に怒号を上げた。


「部外者に易々と侵入されるとは何事だ! どういう警備をしている! 俺はしっかり見張れと言った筈だ!」
  


 郡是の怒号を耳を傾けていた菜月はフッと息を吐き、安眠妨害もいいところだと愚痴を零す。


「三度目だよ。記者に起こされたの。よくもまあ潜入取材なんてやるなぁ」
 

 欠伸を噛み締め、菜月は再び眠りに付くことにした。
 その前に自分の首に下げているエメラルドグリーンの色を放った石、エメラルドグリーン・ヴァールを手に取り、そっと見つめる。
 これは兄が貸してくれたネックレスであり彼の宝物。これがまた自分達を引き合わせると兄は言ってくれた。

 離れてみて分かる。兄姉というべき二人の傍の暮らしがどんなに恵まれていたか。そしてどんなに居心地良かったか。
 
 最初は嫌で仕方が無かったけど、今は少し前の暮らしに戻りたい。家族として迎えてくれる兄姉の顔が見たい。二人は無事だろうか? あれから連絡を取り合えない状況だから心配だ。

 
 無茶はしていないだろうか。





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