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08-16


 
 芹は悪魔達の後を追い駆けなければと思いつつも、目前のパライゾ軍に闘志を燃やしていた。雅陽の逃げるなら今の内発言に更なる闘志を燃やしていた。
 
 自分達はこれでも四天守護家に仕える誇り高き聖斥侯隊、聖保安部隊だ。複数相手に一人で立ち向かおうとするとは舐められているにも程がある!
 「聖界を脅かす悪め」己の中の正義を滾らせ、ソードを握り直し先陣を切ろうとするのだが明星が冷静にならなければならないと静かな声で注意する。慄く様子が見え隠れしていた。何を躊躇う必要があるのだと芹は意見する。

 「躊躇うさ」明星は冷汗を流しながら苦し紛れに笑い、そっとサーベルを構えた。
 

「芹。目の前の男は元竜夜の長候補だ」

「存じ上げておりますが?」


「お前は竜夜雅陽の素性を知らないんだ。あいつは四天守護家の中でも天才と称され、聖界始まって以来、初めて異名を二つ持った男。“神童”と呼ばれ、幼少期は手合わせした竜夜の称号天使にすべて勝った。大人5人をいっぺんに相手し勝利している」

 
 罪を犯さなければ最年少で長の座に就いていただろう。
 明星の説明に、芹は半信半疑だった。それほど凄いとこには見えないのだが…、確かにパライゾ軍として名を挙げているだけはあるようだが。芹は躊躇う上司の気持ちが分からず、今度こそ先陣を切った。

 「芹!」呼び止めの声が聞こえたのだが、芹は一転の曇りもなくソードを振り下ろす。しかしそこに標的はいない。確かに捉えた筈なのに…、瞠目する芹の背後で笑声。
 振り返れば、目と鼻の先に顔を近づけるパライゾ軍元帥が。彼はニヒルに笑う。
 

「威勢良い女は嫌いじゃねえ。だが威勢だけじゃ俺には勝てねぇ」
 

 クツクツと笑声を漏らす元帥は次の瞬間、芹の左耳朶に噛り付いた。

 悲鳴を上げたいやら羞恥が勝るやら、芹は仰天し思わず呆気に取られた。素早く後ろに下がって逃げたものの、耳朶を触りカッと頭に血が上る。噛り付かれたという屈辱に芹は見る見る顔は赤面。
 赤面には羞恥と怒気が混ざり合っていた。完全に弄ばれていることが、まざまざと男の実力と現実を見せ付けられたような気がする。

 「良い反応」口笛を鳴らす雅陽に、こらこらと鉄陽は苦笑い。


「そんなにイジメちゃ可哀想ですよ。その方、気に入ったんですか?」
 
「一夜過ごしてみたくなった。連れ帰りてぇが、あの様子じゃパライゾ軍には入ってくれねぇだろうな。聖界の女は頭の固い奴が多いんだよなぁ。あーあ」

 
 残念だが、敵なら男だろうが女だろうが容赦しねぇよ。
 そろそろ遊びは終わりだと雅陽は構えを取った。芹は羞恥や怒気に感情を支配されつつも、ソードを構えた。援護するように他の天使達も彼女の隣や雅陽の背後に回り、武器を構える。

 囲まれているにも拘らず、パライゾ軍元帥は余裕綽々だった。


「この俺に傷でも付けたら褒めてやるよ。ま、お前等じゃ天地がひっくり返っても」


 無理だろうけどな。
 雅陽は極上の悪意に満ちた笑みを浮かべた。
 
  
 夜空の下。生き物のように大きな塊と化している樹海。木々ひしめき合うその場所の何処からか、耳のつんざく攻撃音が聞こえたのは僅か数分の間だけだった。




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