08-19
急いで声の方に走ると大きな広場に出る。殺風景なその場所の四隅からビィビィビィ。
風花は早足で一本の柱の影に歩み寄る。石造りの柱の影からシクシクと泣き声。風花は安堵の息をつき、膝を折って「カゲぽん」と影に向かって名を呼ぶ。すると影の中からひょっこり頭だけ出す青小鬼。
グスングスンと洟を啜るカゲぽんは風花の姿を捉えるや否やワッと一際大声で泣き、『あくじょ〜』風花の胸に飛び込んだ。
『ごわがっだぁ〜! カゲぽんっ、ひとりぼっちっ、でもがんばっだっ!』
「ごめん。ごめんねぇ。あんたを独りにさせて。もう大丈夫だから。腹減ってるだろ」
うんうん頷くカゲぽんを優しくあやしながら風花はネイリーに視線を向ける。
吸血鬼もホッと一安心だとばかりに吐息をつき、此処を出ようと意見する。カゲぽんも見つかったことだ。この遺跡は非常に興味深いが、自分達は道草を食っている場合じゃない。一刻も早くミステリーデスゾーンに向かわなければ。
「それに腹ごしらえもしなければな」微笑する吸血鬼に頷き、風花はまだワンワン泣いているカゲぽんをあやしながら腰を上げる。
コツコツコツ―。
足音が聞こえた。人気の無い遺跡に足音が聞こえるなんておかしい。まさかパライゾ軍の手を振り払って聖保安部隊達が追って来たのでは?
グズグズ泣いていたカゲぽんも怖じているのか、しゃくり上げているものの涙の量は先程よりも少なくなっている。風花はカゲぽんに自分の影の中に入っているよう指示した。今度は絶対に守るから、そう付け足して。
小さく頷いたカゲぽんは風花の影の中に隠れる。そしてネイリーの傍に駆け寄り、各々武器を召喚して身構えた。
もしも追っ手ならば、この際仕方がない。少しばかり戦闘にもつれ込もうではないか。
だが広場に入って来たのは追っ手ではなかった。
確かに広場に入って来たのは聖界人なのだけれど、入って来たのは数時間前に厄介事を押し付けてしまった少数反乱軍の二人。人間の姿に化けている天使二人組だったのだ。
「あ、なーんだ」風花は武器を仕舞い、身構えて損したと両手を軽くあげ、ネイリーに行こうと声を掛け歩き出す。
「フウム。そうだな」頷くネイリーは風花に倣って歩き始めた。
「って、何気ない顔で逃げようとしているお二人さん! まず、厄介事を押し付けたことに言うことは無いんですか! 言うことは!」
逃がすかとばかりに鉄陽が声音を張る。
足を止めた二人は目で合図すると、一つ頷いて振り返り口を揃えて無いと断言。表情を引き攣らせる鉄陽は大きく溜息をつき、「お仲間になってくれるんですよね?」眼鏡を取ってレンズの汚れを眼鏡拭きで取り始める。
先程風花は仲間になるような発言をほのめかした。しかとこの耳で聞いた。自分達に厄介事を押し付けたのだから、それなりのことはしてもらわないと。
だが風花はもう忘れたとばかりに舌を出し、プイッとそっぽを向いた。
「一番欲しいって思ってくれるならまだしも、いばらの次に思われてる時点で入る気無くしたし!」
「そ、それこそ過去のお話ですよ。今では北風さんが一番欲しいんですから」
だから入りましょうよ。きっと楽しいですよ。
あたふたと勧誘してくる鉄陽を訝しげに見やり、「いばら一番じゃないの?」疑問を投げ掛ける。すると鉄陽は満面の笑顔で言った。
「今は北風さんですって。そりゃ本当の一番は歪な悪魔さんですけど。なにせ歪な悪魔さんは戦闘力もさながら、鋭い洞察力も兼ね備えていて、我々としては喉から手が出るほど欲しい逸材ッ…アイデ! 何するんですか雅陽!」
隣から容赦ない拳骨を貰い、鉄陽は頭部を押さえる。
だがそんな鉄陽なんぞ目にも暮れず、雅陽は彼の胸倉を掴んで青筋を立てた。
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