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樹海の中の遺跡



 *
 
 
 視界の利いていない樹海をペンライト一つで進んでいた風花とネイリーは、まだまだ視界が悪いものの、木や草など辺りがはっきりと見えてきたことに夜が明けたのだと気付く。
 パライゾ軍に厄介事のすべてを押し付けた二人は夜通し、樹海の中を歩いていて離れ離れになってしまったカゲぽんを探していたのだ。

 しかし樹海は広く、何処にカゲぽんがいるのかも分からない。
 従って小鬼を探す手段は名を呼ぶ、歩く、名を呼ぶ、歩く、の繰り返すしかなかった。空腹を訴えていた小鬼は今頃、心細くしながら飢えに耐えているに違いない。小生意気な口を利いたってカゲぽんはまだまだ子供、不安と恐怖に駆られているに違いないのだ。恐さのあまり、ビィビィと泣いているかもしれない。早く探し出さなければと焦りが積もる。

 けれど樹海は似たり寄ったりな景色ばかりで自分達も何処を歩いているのか見当が付かない。


「はぁあ…どうしよう。カゲぽんを置いて行くわけにもいかないし」


 休憩を取る風花は水の入ったペットボトルを取り出し、生ぬるい水で喉を潤す。
 ふーっと息をつき周囲をキョロキョロと見渡すが、目に映るのは気味の悪い木、茂み、木、茂み、木、木、木…。同じ景色ばかりだ。何処を見ても、木、茂み、木、クマ、木、木、木。変わりない景色に厭き厭きしてくる。
 
 「これからどうしよう」風花は重く溜息をついた。
 ミステリーデスゾーンに入る前に、どうしてもカゲぽんを見つけ出さなければ。ペットボトルの飲み口に唇を当て、風花は思案する。


「ネイリー。何か見つける手ないかねぇ」

「こればっかりはなぁ。救いといえば…、厄介事が消えてくれたことだな。まさかあそこでパライゾ軍に再会するとは」

 
 顔を顰めるネイリーの心中を察し、風花はそれ以上パライゾ軍のことを口にはしなかった。二酸化炭素を吐き出しカゲぽんの無事を祈る。
 「それにしたって厭きる景色だねぇ」ほら、何処を見ても、木、茂み、木、クマ、木、木、木。変わりない景色だ。

 木や茂みやクマばっかりだと嘆く風花に、ネイリーはピシリと固まった。目を真ん丸に見開き絶句。チョンチョンと嘆いている風花の肩を叩く。風花は疲れ気味にどうしたのだと問い掛ける。黙ってネイリーは前を指差した。風花が怪訝な顔をして指差した方を見る。


 そこにあるのは木と茂みとクマ。


 何も驚くことはないじゃないか、風花は変な奴と肩を竦め水を飲む。が、しかし、次の瞬間硬直した。

 今、自分達の目の前に動物がいる。
 よく歌にある。あの有名な歌を思い出して欲しい。そう、女の子が森の中を歩いていると出逢ってしまったという動物の歌。白い貝殻の小さなイヤリングを落とせば、歌の中では拾ってくれるだろうが、現実はどうだろうか。

 ぎこちなくペットボトルの蓋を締めると引き攣り笑いでネイリーに尋ねる。


「し、死んだフリとか?」

「はっはっは。知っているかね、フロイライン。死んだフリは逆効果なのだよ。それにたぶん、死んだフリに効果があるとしてもデキる余裕はないな。…まあ、一応やってみるかね?」


 無理むりむり。
 風花はブンブンとかぶりを左右に振った。ネイリーはにこやかに前方を見つめる。




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あきゅろす。
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