[携帯モード] [URL送信]
08-10


 
 天使達が魔力を察知できないであろう場所まで走った二人は、この町で身を休めることは出来ないと判断。
 手の甲で汗を拭うネイリーは「夜は危険だが仕方が無い。ミステリーデスゾーンへ続く入り口に向かおう」懐からペンライトと地図を取り出し、とば口の場所を確認する。

 辰之助の依頼主がくれた情報は非常に分かりやすく、懇切丁寧にとば口の場所などが記されているため、とば口まで向かうことは容易だった。
 
 町を出た二人は静寂な雑木林を歩きながらアルプス山脈の麓に沿うように歩く。
 辺りは薄暗く、虫の鳴く声や葉の擦れる音しか聞こえない。けれども不気味感は漂っていない。
 シンと静かな大自然は都会の騒々しさを忘れさせてくれるようだ。澄んだ空気を噛み締め、瞬く星空を見上げ、明るいお月様に目を細め、二人は早足で目的地に向かう。


『おなか減ったんだじぇ』


 風花の肩に乗っているカゲぽんは腹部を擦った。

 付近に人気はなく人間に姿を見られる心配も無いため、ずっと影の中にいたカゲぽんが外に出てきているのだが、影の中に出るや否や空腹を訴えてきた。既に夕飯時だ。風花達は我慢できるものの、子供のカゲぽんは空腹に堪えられない様子。何度も腹が減ったと喚く小鬼に、風花は仕方が無しに持参したチョコ菓子をカゲぽんに手渡した。ちゃんとした飯はもう少し待つよう付け足して。

 うんうん頷くカゲぽんは美味そうにチョコ菓子を頬張る。
 
 能天気な光景に呆れる気持ちを抱くものの、こういった光景がピリピリとした空気を和ましてくれる。
 カゲぽんという存在は戦闘の面ではちっとも使い物にならないが、こういった空気作りでは無くてはならない存在だったかもしれない。あらためてカゲぽんがついて来てくれて良かったと、風花はしみじみ思う。
  
 
 延々と続く雑木林を二時間ほど歩いていると、ネイリーがふと足を止めた。次いで風花も足を止める。
 吸血鬼はペンライトで地図を照らし、うんぬん場所を確認すると「ここら辺だ」ペンライトと地図を懐に仕舞った。「ここいら一帯は魔力が乱れているな」眉根を寄せているネイリーは肌が粟立つと二の腕を擦っている。
 
 風花自身も神経を研ぎ澄ませて魔力を感じ取ってみる。
 
 確かに魔力を感じるが乱れているかどうかは分からない。つくづく魔力を感じることがド下手くそだと、自分の不器用さに舌打ちを鳴らす風花はとば口は見つかりそうかと尋ねた。
 ネイリーは周辺を見渡し、かなり魔力が乱れているからなぁ…と苦言。
 
 場所は丁寧に書かれているらしいが、時刻は夜。
 
 特徴ある場所を書かれていても見つけにくく、魔力も四方八方に乱れているため、そう簡単にとば口が姿を現してくれないと言う。
 「弱ったものだなぁ」ある程度は魔力を感じ取れるのだが、魔力の乱れが何処から漏れているのか見当も付かない。ネイリーは肩を落とし、重く吐息をつく。日が昇れば分かるのかもしれないだろうけれど…、仕方が無い、今日は此処で野宿するかとネイリーは提案した。

 日が昇ってから探した方が見つける時間も短縮できるのではないか。闇雲に探すよりはマシな選択肢だと思う。随分歩いたことだし、身を休めようと吸血鬼は風花に意見を求めた。
 「そうだねぇ」相槌を打つ風花が答える前に、駄目だとカゲぽんが悲鳴を上げた。何故だと不思議な顔を作る二人に対し、小鬼はキャンキャン喚いた。


『お前等! 天使の魔力感じないのか! ずーっと向こうだけど感じるんだじぇ!』
 

 金棒の代用品、金属スプーンで自分達の歩いてきた方角を指す。
 
 二人を瞠目した。「あんた感じる?」ネイリーに問い掛けてみると、小さく首を横に振った。ここら一帯は魔力が入り乱れているせいで、誰が誰の魔力だか、それこそ近くにいる風花やカゲぽんの魔力さえも感じる事が難しいと語る。

 だがカゲぽんは的確に魔力を感じ取った。嘘を付いているとは到底思えない。

 フウム、ネイリーは一つ頷いて顎に指を掛ける。




[*前へ][次へ#]

10/25ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!