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08-02



 荒々しく鉄陽から胸倉を放し、雅陽は歩き損だと愚痴りながら移動魔法の魔法陣を召喚した。雅陽はパライゾ軍の本拠地に帰る気満々なのである。
 鉄陽は「待って下さいよ!」と雅陽を呼び止めた。「うるせぇ!」付き合ってられるか。一人で探せ。怒号を上げる雅陽が魔法陣の中心に立ち、術を発動させた。が、発動直後パリンと虚しく魔法陣が砕け、術は不燃焼に終わる。
 
 グイッと片眉をつり上げる雅陽に対し、鉄陽はだから止めたのにと呆れ口調、でも表情は清々しいほどの笑顔を作る。


「雅陽。人間界の樹海って魔力が入り乱れてるんですよ。だから樹海を抜けないと移動魔法も使えないんです。そう、嫌でも雅陽は僕と一緒に遺跡を探さないといけないってことですね!」
 
 
 やっぱり僕と雅陽って運命共同体なんですよ。
 長候補時代から分かっていたことなんですけどね! 生きるも死ぬも一緒。迷子になるのも一緒。遺跡を探すのも一緒。何をするにしても一緒になってしまうんですよ。


「いやぁ僕等ってスバラシイ友情が芽生えていると思いません? 固いキズナで結ばれてるんですよ。わぁおサムイサムイ!」


 にへらへらと笑うおとぼけに、天才と謳われていた雅陽のこめかみは青筋だらけで大変なことになっていた。
 いっぺん地獄に叩きのめしてやりてぇ。物騒な気持ちを抱きつつ握り拳を作りつつ、フルフルと怒りに体を震えつつ、元帥は考えていた。此処で怒り狂えば自分が馬鹿を見る羽目になる。無駄な体力消耗は極力避けたい。

 「今日中に着くようどうにかしろ」感情を抑えながら命令をすれば、「大丈夫ですって」鉄陽は懐に手を突っ込んだ。
 
 
「こんなこともあろうかと、方位磁針を持ってきたんです。えーっと確か…あったあった。じゃじゃじゃーん、魔石が入った方位磁針です」

 
 笑顔で方位磁針を取り出した鉄陽は方角を確かめる。方角を指し示す矢印はくるくると回っている。いつまで経っても回っている。止まる術を知らない。
 「あ、しまった」うっかりしていたと鉄陽はパチンと額を叩いた。
 

「此処は魔力が入り乱れているから方位磁針も無駄だったんだっけ。あははは、参ったなぁ。
ま、でも僕等、魔界生活で凄く鍛えられましたし。一週間野宿でもへっちゃらですよ。お互い泥水啜って生きてきた男ですよ? ちょっとやそっとじゃ死にませんって。仲良く野宿を楽しむってのもアリだと思いません? ッ、ちょ、雅陽! 此処で喧嘩しても一緒ですよぉおお!」
 
 
 右手に日輪のクレイモア、左手に霧の短剣を召喚した雅陽はまさしく憤怒していた。
 後退りする鉄陽は落ち着きましょうと宥めてくるが、今の雅陽には聞こえない。人を散々歩かせ、連れ回し、迷子で帰れない上に挙句の果てには方位磁針が使えない。ブチギレる要素満載だった。
 
 
「鉄陽、そこに直りやがれ!」

「ま、雅陽暴力反対ですから! 話し合えば分かりッ、アブナ!」
  
 
 各々の世界を恐怖と警戒の念に陥らせている少数反乱軍・パライゾ軍の元帥とその部下は間の抜けたことに、人間界ヨーロッパ・スイス連邦、人間に知られぬことのない樹海にて迷子になっていた。




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あきゅろす。
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