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樹海の某地


    

 ―――人間界 ヨーロッパ・スイス連邦 人間に知られぬことのない樹海にて。
 
 
 広大な大地を覆う大森林がやけに薄気味悪さを演出している。
 
 真昼間だというのに薄暗く、空を仰げば高く伸びた木々の葉が、まるで曇天模様のように圧力をかけながら覆い被さっている。木漏れ日なんて可愛らしい言葉、どこにも見当たらない。日が射さないせいか踏み歩く草木や土がやや湿っている気がする。乾燥っ気がまるでない。肌がベタついている気もする。

 ジメッと不快指数の高い空気の感触に、パライゾ軍元帥・竜夜雅陽も不機嫌指数を上げていた。
 歩けど歩けど見えてこない目的地。消耗していく体力。薄暗い視界。すべてが彼を不機嫌にさせていた。さっさと人間界からおさらばしたいとさえ思えてきた。
 

 そんな雅陽が人間界に降り立っている理由は一つ。
 

 人間界にフラグメントの情報が眠っていると掴んだからだ。二ヶ月程前から人間界に度々降り立っては情報を求め、人知れぬ遺跡を転々と回っている。しかし大抵、歩き回った遺跡には大した情報は眠っておらず、今日向かう遺跡で掴んでいる情報は最後だ。今度こそ有力な情報が記されていることを期待して遺跡に向かっていたはいいが、いつまでたっても目的地は顔を出さない。

 いい加減、到着しても良い頃合なのだが。
 
 「おい。まだか」低い声で唸る雅陽に、前方を歩く天使・竜夜鉄陽は立ち止まって振り返ってくる。彼はやけにキラキラと満面の笑顔を作り、軽く両手をあげて一言。

「あれあれ。此処はどこでしょう」

 間の抜けた顔を作っていた雅陽だったが、ヒクリと青筋を立て握り拳を作った。


 ドゴォ―!


 次の瞬間、怒声と悲鳴と物理的攻撃音が閑寂な樹海に響き渡った。
 「酷いですって」僕だってワザと迷子になったわけじゃないのに。頭を押さえてその場にしゃがんでいる鉄陽の胸倉を掴み、雅陽は青筋を立てたまま揺する。


「鉄陽! お前、この俺を三時間も歩かせておいて何っつった?! 此処はどこでしょう…っ、迷ったのか!」

「あはは。やだなぁ雅陽。迷ったんじゃなくて迷子になったんですよ」

「言い方換えたって同じだ阿呆が!」

「そんなに恐いお顔しないで下さいよ。ちょーっと僕も人間界の樹海を舐めていました。反省、鉄陽反省です」


 ペロッと舌を出してくる美青年に雅陽は青筋の数を増やした。ヘラヘラヘラと笑う奴のノンフレーム眼鏡を叩き割ってやりたくなる。


「いやぁ、危険地域だとは知っていたんですけどねー…。あ、雅陽!」





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あきゅろす。
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