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01-07



 泣く泣く菜月は外出を諦めた。他に何かすることは無いだろうか。時間が潰せそうなこと。
 
 人間界であれば“何でも屋”を営業している時間なのだが。
 常連客達がポツリポツリと顔を出したり、悪魔のためにおやつを作ってやったりするのだが。

 もう戻れない時間を惜しんでいるとカゲっぴが『お菓子が食べたい』と影からローブを引っ張ってきた。ハーブ薬草の手伝いをしたこともあり、小腹が減ってきたようだ。
 
 いつも傍にいてくれるカゲっぴのためだ。
 願いを叶えるために菜月はキッチンに立ち、何かお菓子が作れそうな食材は無いかと棚や冷凍庫から使えそうなものを手当たり次第取り出す。
 そして菜月は見事に腕を組んで困ってしまった。見たことも無い食材ばかりだ。

 実は菜月、台所に度々立つもののそれは姉の用意してくれているスープ類を温める程度で聖界に戻ってからは料理という料理をしていない。
 
 唸り声を上げ、菜月は食材と睨めっこする。

 砂糖や塩、卵ならまだ分かるのだが、虹色に輝く小麦粉らしき粉、バターだと思いたい半固形物、赤やら紫やら色とりどりの謎の液体たち。
 これでお菓子を作るのは至難の業ではないだろうか。菜月は試しに紫色の液体を指に落とし舐めてみた。
 
「しょっぱ!」

 あまりの塩辛さに菜月は悲鳴を上げた。舌が痺れそうだ。

 瓶のラベルに目を落とすと『塩の塩漬けエッセンス』と記してあった。
 塩をさらに塩漬けしたエッセンスと解釈して良いのだろうか。塩を塩漬けして何の意味があるのだろうか。塩って漬ければ紫色になるものなのだろうか。これは何の料理に使えるのだろうか。

「こっちは何だろう。見るからに赤いから辛そうなんだけど。ラベルには『炸裂風味』って書いてあるけど」

『カゲっぴも舐めてみたい』

「いいけどー…大丈夫かなぁ。これ」
  
 恐る恐る自分の指とカゲっぴの指に液体を落とし、揃って舐めてみる。
 瞬間、脳天を突き抜けるような衝撃が菜月とカゲっぴを襲った。ケホッと揃って咳き込み、口いっぱいに広がる黒煙を吐き出す。

 確かにこれは炸裂風味だった。舐めた瞬間舌の上で爆発が起こったのだから。
 辛い苦いなどの味覚を感じるよりも先に、口腔で液体が炸裂してしまったため味など分かる筈も無く。
 
 これは本当に調味料なのだろうか。聖界人は料理に何を求めているのだろうか。
 
 理解できないと菜月はテーブルの上に瓶を戻し、早くもお菓子作りに心折れそうになっていた。

 けれども、カゲっぴに目を向けるとキラキラとした眼差しが。引くに引けない。

 菜月は気持ちを入れ替え、人間界で作ったお菓子のレシピを思い出しながら、使えそうな材料でお菓子を作ることに決めた。失敗したら失敗でそれはそれ。またやり直せば良い。

 菜月はボウルに七色の小麦粉らしき粉を入れ、瓶の蓋を開けて牛乳を注ぐ。

 木べらでザックリと掻き混ぜ、思い描く菓子は悪魔がホットケーキ以外でよく好んで食べていたお菓子。

 店の方が美味いだろうに、わざわざ自分に頼んではよく作らせていたお菓子。
 フルーツを混ぜてやると悪魔はとても喜んでくれた。生クリームを付けてやると子供のようにはしゃいだ。焼き立てをいつも美味しそうに頬張ってくれた。
  

 幸せだったあの日々を思い出し、菜月は表情を綻ばせる。

 
 材料の中に乾燥させたフルーツ、ドライフルーツが目に入り、菜月は迷わず手に取った。

 お菓子作りと同時進行に棚に仕舞ってあった木苺を少々拝借し、ジャム作りを始める。
 生地を使えそうな型に流し込むとオーブンに入れ、石炭を薪をセットすると、マッチを擦って古紙に火を点し火種を放り込んだ。温度調節しながら生地を焼くこと約45分。

 火傷しないよう気を遣いながらそれを取り出し、粗熱を取るため一旦放置。ある程度冷ましてから型から生地を取り出し、切り分けていくと美味しそうなパウンドケーキが完成した。

 試食してみるとちゃんとパウンドケーキになっている。七色の小麦粉で作ったにもかかわらず、色合いもちゃんとしたパウンドケーキだ。

 納得いく味にうんと頷き、菜月は大皿にパウンドケーキをのせていく。

 その内、一枚に熱々の木苺のジャムを塗ってカゲっぴに渡す。カゲっぴは嬉しそうに食べてくれた。

『恐がり菜月にしちゃ上出来だっちゅーの!』

 小生意気な感想は褒め言葉として受け止めた。一生懸命作った甲斐があった。


 しかし問題が一つ、





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