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07-20


    
 ずるい―。
 
 泣きじゃくる手毬を見たあかりは顔を顰めた。
 自分だって泣きたいのに、それを必死に堪えているというのに。ひっそりと涙ぐんでいると、目と鼻の先にピンクの薔薇を突きつけられた。顔を上げればいつものようにネイリーが前髪を弄くりながら自分に酔いしれている。
 
「僕という男は。どうして女性に薔薇をあげる瞬間ほど、こんなにも美しく輝いてしまうのだろう! 周囲の男達の嫉妬を買っても仕方が無いな!」

「ネイリーさん」
 
 ナルシスト発言を炸裂しているネイリーはあかりと視線をかち合わせ、目尻を下げる。
 

「大丈夫。僕もフロイラインも戻って来るよ。大切な友を連れてな」

 
 少し待たせてしまうだろうけれど、あかりくん達のしてくれたことに僕は誠意を持って応えたい。それがあかりくん達への感謝の証でもあるんだ。
 あかりくん達を一緒に連れて行くことはできないけれど、君達の想いを持って僕達は聖界に行ってしまった菜月やジェラールを連れ戻す。そして必ず皆で戻る。約束しよう。戻って来たら言っておくれ、「おかえり」と。

 僕等の帰る場所は此処なのだから。
 

「必ず約束は守る。男が一度約束を口にしたのだ。守る守らないの話じゃない。守り切らなければな」

 
 どこまでも真っ直ぐな吸血鬼の言葉にあかりは胸を打たれた。
 差し出された薔薇を受け取り、「絶対ですよ」上擦った声を出す。ネイリーは頷いた。必ず約束は守る。可愛いフロイライン(お嬢さん)と約束を交わしたのだ。守り切らなければ男ではない。

 
「男ならば、大切な物を賭けてやらなければいけない時がある。大切な物とは覚悟ではなく、これは男としての誇りかもしれない。今まさにその誇りを賭ける時だな。なにせ君のような可愛いフロイライン(お嬢さん)と約束を交わしたのだから」

 
 ウィンクしてくるネイリー。
 あかりは恍惚と彼を見つめた。良いことを言ったと自分にまた酔いしれる吸血鬼だが、彼の限りない純心に心が温まる気持ちでいっぱいだった。



「あかりくん、僕等が留守中でも君は笑っておくれ。君に涙は似合わないさ」


 
 そう告げてくる吸血鬼にあかりは紅潮した。
 相手はナルシスト吸血鬼、相手はナルシスト吸血鬼なのに、妙に鼓動が高鳴る。貰ったピンクの薔薇を握り締め、あかりは自分の気持ちを誤魔化すようにネイリーに舌を出した。「戻って来ないと絶交ですからね!」と。
 
 いつもの調子に戻るあかりを微笑ましく見ていたネイリーだったが、不意に脇腹を小突かれ視線を逸らす羽目になる。犯人は冬斗だった。非常に不機嫌面を作りながらジトッと彼はネイリーを見上げる。

「先輩。戻って来たらバスケで勝負しません?」
「ん? ああ、勿論いいぞ。しかしまた唐突だな」

「べつに…バスケなら勝算ありそうって思ったんっすよ」

 やけにぶすくれている冬斗にネイリーは首を傾げたが、「そうか」手を叩いて納得。




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