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07-19


    
 「あ!」と、話を打ち切るようにあかりは声音を上げた。
 やけに目立つ髪を持つ人物が、青白い肌を持つ人物と共に駅に飛び込んでくるのを目にした。それは待ち焦がれた人。あかりは二人に向かって大きく手を振った。額に浮かぶ汗を拭い、息を切らしながら二人は手を振り返してくる。
 

 良かった。無事だったのだ!
 

 安堵やら連絡してこないことに怒りやらが混じり合いながら、あかりは思わず遅い、連絡くらいくれたって良かったではないか、と二人に悪態をつく。
 
 「ごめんごめん」風花は片手を出してあかりと、待ってくれていた者達に謝罪する。聖界人を撒くのに散々苦労してきたのだと弁解しながら。
 曰く、途中で乗っていたネイリーの愛車を崖に捨ててきたという。二人は少しでも聖界人を撒くために。その際、連絡手段器具である携帯を中に置いてきたため連絡する術がなかったとか。
 車を捨てた後は走ってその場から逃げ、途中タクシーを捕まえて此処までやって来たという。
 
 タクシーから此処まで、全力で走ったのだと語る風花は思い返しながら呼吸を整える。
 「お怪我の方は?」雪江が二人の身を案ずる。大丈夫だと言葉を返し、風花はネイリーの方に視線を投げて苦笑い。

「だけど愛車捨てて良かったわけ? あんたの大切な車だったんだろ?」

 風花の問いにもネイリーは笑顔だった。

「形ある物はいずれ消える運命さ。愛車には悪いことをしたが事態が事態だったんだ。許してくれると思う」
 
 愛車に申し訳ない気持ちはあるものの、ネイリーは悔いていないと答えた。あの状況では捨てるしか向こうをかく乱する方法は無かっただろう。
 だが此処に長居していては聖界人に見つかる可能性がある。直ぐに出発しなければ。
 ネイリーの言葉に風花は頷き、あかり達から荷物を受け取った。不足している分は旅の途中で調達するつもりだった。立ち止まっている暇は無い。
 

「本当は夕飯をご一緒したかったんですが」
 

 見送りはゆっくりとしたかった。辰之助は子供達に目を向け、彼等の気持ちを代弁した。
 勿論二人だってそうしたかったに違いないが事態が事態だ。辰之助は二人を責めることなく、「どうかご無事で」これからの旅路を祈った。無事で帰還してくれると信じている。錦夫妻は餞別にと二人に二つのポーションらしきものが入った小瓶を手渡した。
 
 片方のラベルには天狗マークが、片方のラベルには雪だるまマークが載っている。「これは?」風花の疑問に、雪江が説明を始める。


「これは天狗の妖気と雪女の妖気がそれぞれ詰まっています。これを飲めば一度だけ私達の力が使えるんです。天狗マークは飛翔、雪だるまマークは吹雪、どちらとも何かの役に立てる筈です」

「へえ、吹雪に飛翔か! …てことは辰之助、あんた飛べるわけ?」


 そんな風には見えないんだけど。
 風花の疑心に辰之助はズレそうなる眼鏡を掛け直し、頬を掻きながら飛べるのだと頷いた。


「天狗って飛べる奴と飛べない奴がいまして。自分は前者なんです。妖怪に戻ればある程度は飛べますよ。まあ、天狗だからって鼻は長くなりませんが…。どちらとも効力は10分程度ですから注意して下さいね」
 
「そっか。何から何まで世話になって悪いねぇ。これは大事に使わせて貰うから」

 
 錦夫妻に礼を告げ、小瓶を鞄に仕舞うと風花は子供達の方に目を向ける。
 それぞれ寂しそうな顔を作っているが、約一名泣きそうな顔をしているが無事に帰って来て欲しいと有り触れた、だけど優しい言葉を送ってくれる。「おう」風花は元気よく返事を返した。
 
 刹那、「さみじぃい!」泣き虫毛虫の手毬が怪獣のような鳴き声を出しながら風花に抱きつく。
 文字どおり怪獣の鳴き声。周囲を圧倒してしまうような声で手毬はワンワン泣いた。
 「馬鹿泣くんじゃないよ」風花は苦々しく笑い、手毬の頭を撫でた。自分達は絶対に帰ってくる。大丈夫。約束する。その言葉がまた涙を誘うのだろう。手毬は一際声を大きくした。




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