07-18
こうして一行は昼過ぎから新幹線駅付近をうろつき、携帯を気にしたり、風花達の姿を捜したり。
日が傾き始めると落ち合うであろう新幹線ホーム改札口前で待ちぼうけ。連絡は一向に入ってこない。時間だけが刻一刻と過ぎていく。時間が経てば経つほど風花達の安否が気になる。
二人は無事だろうか、あかりはそわそわと周囲を見渡した。
学生、リーマン、OLにフリーターらしき若者。行き交う通行人の中に捜し人は見つからない。聖保安部隊にやられたわけではないだろうけれど(と思いたい)、心配の念は尽きない。連絡くらいそろそろ寄こしても良い頃合なのに。
「遅いなぁ」あかりのぼやきに、「絶対に来るよ」だから落ち着いて。雪之介は言葉を掛ける。
「きっと手間取ってるんだよ。聖界人を撒くことに」
「うん、分かってるんだけど…」
連絡さえ入らないことにやきもきしてしまうのだ。撒いたら連絡をくれると言っていたのに。
溜息をつくあかりを横目で見ていた冬斗は頭の後ろで腕を組み、「聖界も卑怯だよな」と悪口(あっこう)をつく。
何が卑怯かって二ヶ月前に聖界に帰ってしまった二人の気持ちをおじゃんにするような行動を取っていることだ。聖界は最初からこれを目論んでいたのだろうか。忘れた頃に奇襲を掛けると心に決めていたのだろうか。だったら尚のこと卑怯だ。人情を疑う。
幾ら魔聖界の仲が悪いからとはいえ、こんな仕打ち、良心が一欠けらでもあるのならばするべき行為ではない。
「それとも軽く考えていたのかな。魔界と聖界の仲の悪さ」
過去に何度も戦争を起こした事があるという魔聖界。
それこそ自分の生まれるずっとずっとずーっと前の話らしいのだが…、軽く考えていたのかもしれない。魔聖界の仲を。想像を上回るほど各々の世界の溝は深いのだ。まるでクレバスように、両者の世界間にはパックリと簡単には埋められない深い溝ができている。
冬斗は漠然と考えていた。
ではその溝を埋める方法は無いのかと。人間界人の小僧の分際で生意気な考えかもしれないが、負の感情の連鎖を断ち切って両者が手を結んだら互いにより良い未来が築けると思うのだが。
と、偉そうなことを考えてはみたものの人間界も国々で戦争を起こしている。人様の世界を安易に指摘できる立場ではない。
「難しいよなぁ」頭痛がしてきたと冬斗は後頭部を荒々しく掻く。
「ほんとだね」隣で冬斗のぼやきを聞いていた手毬は深々と頷き同調した。本当に難しい。種族問題も、世界の溝とやらも。
「難しいけど案外簡単な問題なんだろうね」
雪之介がそっと口を開く。
これは難しいことで見方を変えれば非常に簡単な問題だ。解決策など分かり切っている。互いを認め合えば良いのだ。それから復縁の一歩を踏み出せる。
だけど、それができないのは互いを認められないからだ。認めるって簡単なようで凄く難しい。
逆に認めてしまえばなんてことのないことなんだろうけどね。
「僕が今こうやって皆の傍にいられるのは、皆が僕という妖怪を認めてくれたから。それまで僕は妖怪って種族に嫌悪していた。簡単には異種族だからって…、割り切れなかった。同じだよ、魔聖界の問題もさ。
ただ規模が大きくなったせいで解決するのが容易じゃなくなった。ってところかな。なにせ個々人じゃなくて世界同士だもん。そりゃ難しいよ」
微苦笑を零す妖怪に同意見だとあかり達も苦笑い。
自分達だって暫くの間、種族の壁に問題で悩んでいた。個々人でさえこんなにも悩むのだ。世界同士なんて尚更ではないか。
当たり前のように仲良くすれば解決する、一番の良策だなんて考えは万人受けではない。寧ろ各世界には受け入れがたい見解。片隅では分かっていると思う。いがみ合うよりも協定を結んだ方が良き未来を築けるということは。
それができないのは感情というものが不器用…、だからかもしれない。
人の行き交いを眺めながら種族について語り合う。
語れば語るほど自分達ではどうしようもできない大規模な問題だと実感させられる。簡単で難しい、大きな問題。
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