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07-15

 
    
「見送る時は笑顔で見送ってやろう。何年掛かっても信じて待ってやろう。そして先輩達が戻って来たら温かく出迎えてあげよう。お疲れ様って言ってやろう。先輩達の帰る場所になってやろうって」
 
「帰る場所…」

「それが今、僕等にできることだと思うよ。先輩達を信じる。先輩達の帰る場所になる。そして一番の適役は本条さんなんだと思うよ」

 
 「ね?」同意を求めてくる妖怪はあどけない笑顔を作った。

 あかりは恍惚に妖怪を見つめていたが、「うん」こっくりと首を縦に振る。自然と表情が崩れた。
 雪之介に自分に何ができるかの答えを貰った気がする。風花達が言ってしまうのは寂しいけれど笑顔で見送って、遠い地の人間界(ここ)から彼等を信じて待つことにしよう。きっと悪魔と吸血鬼は恋人と友を連れて戻って来る。きっと、また楽しかった日々が戻って来る。強く信じることにしよう。
 
 笑顔を取り戻したあかりに微笑し、雪之介は時計をチラッと見る。

「ふーちゃん達、もう来るよ」

 さっき連絡を入れたからきっと二人で此処を訪れるだろう。今晩出発する悪魔や吸血鬼に、せめて夕飯だけでも食べてもらおう。夕飯は我が家で出すから。あかりにそう案を出すと、彼女は小さく頷いた。

 更に雪之介があかりに励ましの声を掛けようと口を開いた時、「ユキちゃん素敵。世界一」と声。
 雪之介はピシリと固まり、ぎこちなく声の方を見やる。そこには和気藹々と夫婦で団欒を過ごしている両親の姿。自分達の会話に聞き耳を立てていたようだ。母が恍惚と此方を見ている。


「やっぱりユキちゃんは世界一の子。何を言うにも男前ね」

「当然じゃないか。なんたって雪之介は自分達の息子なんだから。あんな台詞を言ったら女の子もメロメロだろうなぁ」

「私はもうメロメロ。我が息子ながら乙女心がよく分かってるわ」

 
 嗚呼…、親馬鹿炸裂。
 友達の前では是非とも抑えて欲しい会話なのだが。これでは自分が何かを狙ってあかりを励ましたようではないか。自分は純粋に友達として励ましを送っただけなのに。
 
 「色眼鏡で僕を見てもう…」両親の親馬鹿っぷりに雪之介は思わず肩を落とす。
 「す、素敵なお父さんお母さんだよ」落ち込む雪童子にあかりは声を掛けた。あかり自身、純粋な気持ちで励ましてくれたのだと分かっていた。だからこそ励まし返す。
 
「良く言い過ぎるほど、ユッキが大好きなんだよ」
「うん。大好き過ぎて凄いよ。うちの両親。この前なんて将来の僕のために土地を購入しようとしたんだから」
「…土地」

「その前なんて宝石。目玉が飛び出るほどの宝石を僕に似合うだけの理由で購入してきた。ウン百万するやつ」
「ほ…宝石。しかもウン百万」

「ううっ…、色々と親馬鹿がレベルアップしてるんだ。も、どーしよう本条さん」
 
 前はこれほど酷くなかったのに…、雪消病の一件で両親の親馬鹿っぷりがレベルアップしてしまった。
 病魔に侵されていた自分に気付けなかったことを悔いてのレベルアップなのだが、一件以来、家を空ける日は一日に三回は電話が掛かってくる。都合で出られない日には飛んで帰ってくることもある。
 
 前々から親馬鹿だとは知っていたが、それにしたってこれは酷い。酷すぎる。
 「どうしたら子離れしてくれるんだろう」両手で顔を覆って嘆いている雪童子改め雪之介にあかりは心底同情した。もう哀れんでやるしか彼にできることはなかった。




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