07-13
風花はこいつ等をどうにかしなければならないと布鞄の中に手を突っ込んだ。
このまま戦いを続けていたら応援を呼ばれそうだ。これ以上時間を取られたくない。魔具の詰まった鞄から咄嗟に取り出した道具に目を向け、「目ぇ瞑れ!」風花はネイリーに向かって声音を張る。
瞬間、風花は空に向かってそれを投げた。
スティック状の棒から目の眩むような閃光が放たれた。その場にいたものは光の強さに動きを止める。直後、大きな爆発音が空いっぱいに響き渡った。煙が辺りを包み込む。
風花が投げたのはフラッシュボムという煙幕として使われる魔具。主に魔界で使われている品で相手の視力を奪い、隙を突いて逃げる物だ。
かく乱を起こした隙に風花はネイリーと共に車に乗り込み、その場から逃げた。戦うよりも此処は逃げた方が利口だと考えたのだ。
大通りに出れば天使達も追っては来れないだろう。後ろを向いて天使の姿がないことを確認した風花は肩の力を抜き、ゆっくり前方を向きなおして深く座席に座り直す。天使達に襲われた現実より、友の死を知らされた方が衝撃的だった。
怒ればいいのか。それとも嘆けば良いのか。いや何より勝っている気持ちは信じがたい、だ。
(ジェラール。あんたが死んだって、ンなの嘘だろ。嘘に決まってるだろ)
大好きなネイリーを置いて逝ってしまう。あんたはそんな奴じゃない。そうだろ、ジェラール。
「僕は信じない」
まるで自分の気持ちを代弁するようにネイリーは口を開く。聖保安部隊の言葉は信じない。大切な友が死んだなんて到底信じられるものか、と。
ハンドルを切るネイリーの表情は非常に険しく、心情も読み取りにくい。風花は彼に何と声を掛ければ良いか分からなかったが、吸血鬼の意見に同調する。自分も信じない。ジェラール・アニエスが死んだなんて絶対に。
ネイリーは語る。
この目で真実を見極めるまでジェラールは必ず生きていると信じている。聖界の何処かで生きていることを信じている。
「フロイライン、このことはあかりくん達に黙っていておくれ。余計な心配をさせたくないからな」
「ネイリー」
「おっとフロイライン。君もそんな顔をするな。これから本腰入れていかなければいけないのだから」
それにレディがそんな顔をすると僕も悲しいぞ。
ウィンクして笑う吸血鬼に風花は力なく笑った。一番辛いくせに。心配掛けまいとしようとする彼の優しさに、風花は笑うしか方法が無かった。
と、ネイリーの表情がまた険しくなる。サッとサイドミラーを見て引き攣り笑い。
「フロイライン。どうやら彼等は僕等を追って来ているようだ」
「え?!」
ネイリーが顎でビルの屋上を指す。
風花が窓の外を見やれば、確かにビルからビルへと飛び移っている天使らしき姿。人間界人に姿を見られぬよう瞬時に移動している。
あれは移動魔法の応用だろう。地に着いた瞬間、その場から姿を消して向こうへと移動をしている。連続で、しかも器用に術を繰り出せるとはさすが聖保安部隊。自分達の微かな魔力を追って此処まで追って来たのだろう。
ということは何が何でも向こうは自分達を抹消したいらしい。
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