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07-11


   
「しかし日記によると四天守護家の内情は何かと酷いものだな。正義を口にするわりに…、日記のとおりだと今回の北大聖堂事件騒動は色々と不味い」

 眉根を寄せ、ネイリーは腕を組む。どうして自分達が聖界に乗り込む前にこんな大事件が起きてしまうのか。
 風花も吸血鬼と同じ表情を作る。

 
「徹底的に消すつもりだろうね。自分達に逆らう奴等を」

「四天守護家の地位を維持し確立したいのか。あるいは―…ん?」
 

 表情と纏うオーラが一変。

 ネイリーはこれまでになく険しい顔を作り、手早くノートパソコンを閉じた。風花もまた眉間に皺を寄せて手帳を鞄に仕舞った。
 店外から魔力を感じる。魔力を感じ取る事が苦手な風花が分かるほど溢れた魔力。自分達魔界人とは異なった魔力。人間界人は魔力を持っていない。妖怪はもっと異質な魔力を持っている。この魔力は聖界人の魔力、しかも天使だ。
 
 息を殺し、二人は窓からそっと外を窺う。
 そこには純白のローブを身に纏った数人の天使達。見たところ、以前自分達を襲った聖保安部隊ではなさそうだが、ローブに見覚えのある金バッチ。別の聖保安部隊が現れたようだ。彼等は店の前をうろついている。

 と、隊の長であろう天使の声が聞こえた。


「菊代さまの御命令だ。異例子と繋がりを持っていた北風の悪魔、及び魔界人の排除を行う。どうやら付近にいるようだ。間違っても人間を殺傷するな。人間界人の危害は許されていない」

 
 「わぁーお」風花は小さく声を上げた。
 聖界はコロコロと気が変わるらしい。自分達に瀕死の重傷を負わせながらも生かす道を選ばしておいて、此処にきて異例子との繋がっていた証拠を抹消しようと魂胆らしい。なんて気まぐれな奴等なんだ。
 天使達は自分達が此処にいると気付いている。気配とか、魔力とか、そんなことよりもまず店前に車を停めているのだ。店内に自分達がいると気付いている。

 自分達に気付かれぬよう天使達が行動を開始した。
 風花とネイリーは顔を見合わせ小さく頷く。身を屈め、音を立てぬよう荷物を手に持つと台所へと向かった。息を殺しながら勝手口から外に出る。店内から物音が聞こえた。天使達が店の中に入ったに違いない。二人は素早く車を停めている店前へと足を運ぶ。

 壁に身を隠し状況を確認。
 車の前には天使が二、三人。見張りのようだ。無益な戦いはなるべく避けたいのだが、しかも相手は聖保安部隊。一般天使以上の実力を持っている。下手をすれば旅立つ前に怪我を負いかねない。だがこの際仕方が無い。


「戦うしかないよ」


 風花が小声でネイリーに声を掛けた瞬間、指笛が鳴らされた。
 見張りが此方を向いて仲間に見つけたことを知らせている。彼等は耳が良いようだ。自分達の話し声を拾い上げたのだろう。
  
 チッ。風花は盛大な舌打ちを鳴らすと大鎌を召喚し、先陣を切った。
 疾風の如く天使のひとりの懐に入り、柄頭で顎を突く。その間にも店内にいた聖保安部隊達が素早く出てくる。さすがは四天守護家が誇る部隊。動作の一つひとつに無駄がない。
 
 しかし思うのだ。
 この聖保安部隊達は自分達を襲ったあの忌まわしき聖保安部隊達より随分とマシだと。それは自分の手腕が上がったせいかもしれないが、それにしても相手がやや弱く思える。あいつはまだ強かった。容赦も加減もなく、一心不乱にバスターソードを振るってきた。

 風花は自分を切りつけた若き隊の長の顔を思い出し、リベンジに燃えた。聖界に行っても絶対にあいつだけはこの手で倒す。復讐心ではない。リベンジ精神が自分を駆り立てる。
 「あんにゃろう!」顔を思い出し、風花は思わず目前の天使に八つ当たりまがいの飛び蹴りを食らわせた。傍でサーベルを振るっていたネイリーはちょっぴりとだけ思った。今のフロイラインは恐い、と。
 
 二人の抵抗に聖保安部隊達は各々表情を険しくした。
 「魔界人め」誰かの悪態が聞こえてくる。中年男性の隊長が熱くなるなと部下に注意し、二人を見据えた。風花はシニカルに笑う。




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