07-09
ダンボールを次々にひっくり返しては中に戻し、古びた机の引き出しを開けて奥を確認。何か手掛かりはないかと探した。と、ダンボールタワーを退かしたその奥に竹で編まれている籠を見つける。まるで隠されたように息を潜めているそれ。
随分埃をかぶっている籠だと思いながら、風花は籠を引っ張り出した。
埃を払い落とし中身を開ける。そこには男性物の着物が入っていた。どうやら菜月の祖父が生前着ていた着物のようだ。「なんだ」落胆しながら風花は着物を手に取ってみる。
ポトッ―。
着物の間から何かが零れ落ちた。風花は目を落とす。床に転がっていたのは手の平サイズの手帳。
「手掛かりになりそうなのみーっけ!」
風花は嬉々を抱きながら着物を戻し、手帳を拾い上げる。
早速中身を開いてみるとぎっしりと小さな文字が走り書きされていた。しかし残念な事に風花には読めない。見覚えのある文字は漢字やひらがなといった日本語を使われているようだ。
天使のクセに日本語を使うとは。魔聖語で綴れば良いのに。
愚痴りながらも風花は、菜月が生前祖父は人間界の日本をこよなく愛していたと話してくれたことを思い出す。
こっちの文字を使うほど彼は日本国を愛していたのだろう。
風花はネイリーに読んでもらおうと手帳を片手に、物置きをある程度片付けると一階へ下りて行った。
ネイリーは一階で寛いでいる、と思いきやテーブルの一角を陣取ってノートパソコンを弄くっていた。車に積んでいたらしい。
風花が二階で作業をしている間に、何かしておこうと思ったのだろう。
カタカタカタと喧しい音を鳴らしながらパソコンの画面と睨めっこしている吸血鬼に風花はそっと声を掛ける。
「来たかい」ネイリーは画面から視線を逸らし綻んでくる。風花は隣に腰を掛け、何をしていたのかと尋ねる。間髪いれず彼は答える。風花のパスポートを作っていたのだと。
「ミステリーデスゾーンはスイス連邦という国にあるらしいからな。パスポートが必要だとこうして作っているのだよ。フロイライン、持っていないだろ?」
「持ってないけど…、いや身分証明書とか作れないしさ。悪魔だし。だけど作るってあんた…」
「ウム。まあ、人はこの行為を“偽造”とも呼ぶが、それは人間の中のルール。魔界人には関係ないしな!」
悪用するわけではないし、別に問題は無いだろうと吸血鬼は軽く笑い声を上げた。笑い事ではなく偽造は犯罪なのだが、彼の言うとおり、魔界人の知ったこっちゃない。悪用するわけではないし、外国に行けないのは困る。
「どれくらいで出来そう?」風花の問い掛けに、「30分あれば」鼻高々とネイリーは答えた。
「ちょ、それ凄くない? 早くない?」
「“マスターキー”にも色々特権があるのだよ、フロイライン。人間界では犯罪領域にある手法も、此方のルールでは許されている」
ウィンクしてクスリと笑ってくるネイリーが今だけやや腹黒く見えた。腹黒ほど彼には似合わない言葉だというのに、今だけはちょっぴりと腹黒く見えた。
「フロイラインの方はどうだい?」
話題を振られ、忘れてたと風花は手を叩く。
「魔具を見てもらう前にこれ、読んで」
風花は持っていた手帳を吸血鬼に差し出す。「これは?」興味津々に受け取る吸血鬼に菜月の祖父の手帳だと説明する。
もしかしたら聖界の情報が載っているかもしれない。
矢継ぎ早に喋る風花に相槌を打ちながら、ネイリーは四方八方から手帳を眺める。
開く素振りを見せない。
何をしているのだと風花が怪訝な顔を作った瞬間、ネイリーは手帳に挟まっているしおり代わりの紐を強く引っ張った。
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