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07-08


   
 錦宅に友達の手毬と冬斗を呼ぶから此処に残ると言うあかりを置いて、風花はネイリーの車で自分の家と呼ぶべき“何でも屋”に向かった。

 向かう途中風花は聖界の現状を事細かに尋ねた。
 何故、聖界を襲った大事件とは何か。その要因は何か。具体的にいつ頃、四天守護家が動き出すのか。
 現段階では話し合いに留まっている、吸血鬼はありのまま話した。一切隠し事をしないのは彼なりの風花に対する配慮だった。風花は聖界に行きたい気持ちを強く抱いている。

 だからこそ正直に現状を話すべきだと考えていた。

「聖界はてんやわんやになってるそうだ。あそこは平和と平等をモットーにしているからな。同じ種族が暴動を起こすなんて思いもしなかったんだろう」

「魔界じゃ当たり前のようにあってるけどねぇ。聖界も大変だなぁ」

 北大聖堂事件の話を聞いた風花は一抹の不安を抱きつつも気持ちは高揚していた。聖界に行ける。その現実が風花を奮い立たせていた。
  
 
 久々に店に戻った風花は、ひっそりと佇んでいる二階建造りの“何でも屋”を見上げて失笑を漏らした。
 少し見ない間に随分寂れた気がする。さほど時は経っていないというのに。哀愁漂っているというか、生活感がなくなってしまったというか。
 
 「外で待ってるよ」気遣ってくれるネイリーはそう言ってくれたが、風花は1階で待っててと店の扉の鍵を開けた。
 シンと静まり返った店内は二ヶ月ほどまで当たり前のように生活していた空間。その面影が跡形も無い。賑やかだったあの頃を懐かしみながら、風花はネイリーを中に招き入れた。やや埃っぽい1階の店内にネイリーは苦笑いを浮かべながら腰に手を当てた。


「フロイライン。戻って来たらまず大掃除が待ってるな」

「ほんとだよ。あ、適当に座ってていいから。あたしさ、ネイリーに魔具を見てもらいたいわけ」


 ネイリーは興味を示した。
 

「魔界から持ってきたヤツかい?」

「そっ。できるだけ荷物は最小限にした方がいいしねぇ。水や食料も入れてかなきゃいけないし」


 「とにかく待ってて」風花は言葉を残すと二階へと駆け上がる。
 懐かしんでいる場合ではない。感傷に浸っている場合でもない。さっさと支度をしなければ。今晩、自分達は此処を発たなければならないのだから。聖界から人間界に戻って来たらまた、前のような生活が送れるのだ。


 懐かしむ必要など何処にも無い。

  
 寝室に飛び込んだ風花は静寂を裂くように荒々しくクローゼットを開け、魔界から持ってきたポーションや魔具などが入った布鞄を引っ張り出す。
 鞄の蓋を開け、中身を確認する。小瓶に薬草、人間界では見られぬ道具の数々。ごちゃごちゃとしている中身に一つ頷き、風花は鞄を閉めるとそれを肩に掛けた。下着などの着替えはスケルちゃんが用意してくれているだろう。とにかく今は使えそうなものを用意しなければ。


 寝室を出た風花は一階に続く階段に足を向けた。が、直ぐに踵返し、奥の物置部屋に入る。
 

 物置部屋はもっぱら菜月の祖父の遺品が詰まっていた。
 ダンボールのタワーに机に椅子に、生前彼の祖父が使っていたであろう品が詰め込まれている。

 風花はおもむろにダンボールタワーのてっぺんから箱を取るとそれをひっくり返し、中身を確認し始めた。風花は何か聖界の情報が眠っていないかと考えたのだ。確か彼の祖父は四天守護家の中でも高い地位に就いていたと言っていた。情報が眠っていもおかしくないだろう。

 何か情報源は…、日記でも何でもいい。何か眠っていないだろうか。




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