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07-07



「こんなに良くしてもらって…、ほんとありがとう。助かったよ」
 
「可愛い愛しい目に入れても痛くないユキちゃんを助けてくれた方々ですもの。これくらい当然ですよ」

「雪江の言うとおりです。可愛くて仕方が無い雪之介を助けてくれた方々が困ってるんですから、こちらだって全力で手助けしたいと思うんですよ」

「お父さん…お母さん」

 
 言葉の節々に当然の如く親馬鹿発言を交える両親に雪之介は気恥ずかしそうに身を縮めていた。あかりは同情した。親馬鹿というのも度を超すと苦労しそうだな、と。
 
 アイスティーを半分ほど飲み、喉を潤したネイリーは辰之助から貰った紙を四つ折りに畳んでしまうと風花に言う。「今晩にでも発とう」と。
 驚愕したのはそれ以外の一同。風花も当然驚いてしまった。用心深いネイリーのことだから準備期間を設けると思ったのだ。なのにまさか、今日の夜に発とうなんて突拍子も無い。
 
 さすがに早過ぎるのではないかと雪江が声を掛ける。
 デスゾーンは危険な地、準備を怠っては命に係わる。同意見だと辰之助はネイリーに落ち着くよう言った。気持ちは分かるが気を焦らせては些細な事でヘマを犯すかもしれない。せめて三日後にできないか。
 
 そう言うもののネイリーの気持ちは揺るがなかった。
 彼らしくない一面に風花は眉根を寄せ、「何かあったの?」と静かに問い掛ける。曖昧に笑う吸血鬼に好からぬ何かあったのだと確信した。何があったのだと風花は詰問した。吸血鬼は間を置いて口を開く。「不味いことになったんだ」
 
「今朝、聖界から情報が入った。聖界では今、とんでもないことが起きようとしている」
「とんでもないこと? 何さ。それ」
  
 結論から言ってくれ。まどろっこしいから。風花の捲し立てにネイリーは目を伏せ、重々しく言った。


「菜月とジェラールが“聖の罰”を受けるかもしれないんだ。二人が危ない」
 

 その場が凍りついた。
 
 「どういうことですか」固まっている風花の代わりにあかりが質問を重ねる。二人の命が危ないなんて。ジェラールの様子は分からないが、菜月は聖保安部隊の監視の下、兄姉と暮らしているのではないか。何故危ない目に遭おうとしているのだ。
 矢継ぎ早の質問にネイリーは黙っておくつもりだったのだが…、と言葉を濁しつつも聖界の現状を語り出す。

 今、聖界では反聖界派が起こした事件によって四天守護家は反聖界派の討伐の決意を声明している。
 同時聖界に相応しくない者、いずれ反聖界派に肩入れしそうな者の拘束、アウトロー・プリズン(地下牢)への禁固、“聖の罰”の執行を具体的に述べている。


「菜月とジェラールは魔界人と繋がりを持った。四天守護家の掟を破っている。彼等が“聖の罰”を受ける要素は十二分にあるんだ。本当は黙っておくつもりだったが、必ずこれを話さなければならない時期が来る。では今話しておこうと思ったのだよ。フロイライン、僕等にはもう時間がない。今晩にでも発たなければ。
なに、心配は無いよ。ある程度の準備は既にスケルちゃんに頼んでいる」


 フッと笑みを向ける吸血鬼に笑みを返し、風花は蚊帳の外にいる者達に告げた。今晩自分達は発つ、と。
 菜月とジェラールのことで気持ち的に焦りが無いと言えば嘘になるが、それよりも聖界に発ちたい気持ちが勝る。二ヶ月間、準備は十二分にしてきた。情報を得た今こそ、行動に起こす時だ。
 
 今すぐにでも発ってしまいたいが、風花は一旦店に戻りたいとネイリーに申し出る。店に魔界から持ってきた魔具等々を向こうに持って行きたいのだ。それに人間界に残す友人達とも挨拶を交わしたい。
 浮かない顔を作っているあかりに目を向け、風花は苦笑いを零した。

 こんなにも早くに旅立つなんて思わなかったのだろう。自分だって思わなかった。

 けれど自分達は旅立たないといけない。二ヶ月前から心に決めていたことだから。
 

「本条さん。ふーちゃんと乙川さんに連絡しよう」

 
 皆で見送ろう。連れてってもらえなくても、それくらいはしたって許される。雪之介は曇り顔を作っているあかりに声を掛けていた。
 すると少女はパッと表情を明るくし、強く頷いた。気丈に振舞っていることは一目瞭然。

 しかし風花は何も言わなかった。言えば彼女の気遣い、優しさを傷付けると思ったから。
 



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あきゅろす。
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