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07-06


 

 あ、前置きはいらないというお顔をしないで下さい、風花さん。取り敢えずお話を最後まで。ね?

 
 ゴッホン―。
 さて続きなのですが、どのような手を使ってもその方は聖界へは行けませんでした。

 知ってのとおり移動魔法を使えるのは天使と極一部の種族のみ。当然妖怪だったその方は移動魔法なんて高度な魔法は使えません。
 それでもその方はどうしても聖界に行きたかったそうです。事情までは存じ上げませんが、その方は聖界への行き方をあらゆる可能性から見て推測、行動、失敗、また探すを繰り返したそうです。 
 
 その方曰く、どうやら人間界・聖界・魔界には強い時空の壁があるようなんです。
 まるで衝立(ついたて)で仕切りを作ったかのように、各世界には時空の壁が存在している。移動魔法を使う者達は時空の壁に小さな穴をあけ、そこを通り抜けているようなんです。穴をあける術は非常に繊細で高度なもの。移動魔法を会得するには十年も二十年も、いえ、一生掛かっても会得できないかもしれない。
 
 そこでその方は考えました。時空の壁の何処かに穴は無いのか、と。

 聖界という入り口を探すには時空の壁の穴を探すしかない。
 一つの仮説を立てたその方は一心不乱に時空の壁の穴に当たりそうな場所や現象を探しました。そしてついに見つけたのです。
 

「風花さん。ネイリーさん。息子を助けて下さった時、デスゾーンに入りましたよね?」


 デスゾーンとは魔聖界の魔力の影響で、人間界のある場所の時空が捻じれてそこに魔法が宿ってしまった地を指す。
 以前、風花達は雪消病に掛かった雪之介を救うべくアイスデスゾーンと呼ばれた場所に入ったことがあるのだが、非常に危険な場所で、風花達は大怪我を負った。
 「まさか」それまで黙って話を聴いていたあかりは、息を呑んで辰之助に尋ねる。


「デスゾーンが聖界へ行ける手段なんじゃ」

「ご名答だよ、あかりちゃん。時空を捻っているデスゾーンこそ聖界へ行く入り口だったんだ」
 

 辰之助はポケットから四つ折りにされている紙を広げ、風花達に見えるようにテーブル上に置いた。
 日本語で書かれているそれは風花には読めず、隣に座っているネイリーになんて書いてあるのか尋ねた。彼は文面をななめ読みし返答。これはデスゾーンの場所が記されている、と。
 
「その方が言うには“ミステリーデスゾーン”というデスゾーンと、“サンクチュアリデスゾーン”というデスゾーンの二つが聖界へ行く道になるらしいんです」

 その方が行ったのはミステリーデスゾーン。
 他のデスゾーンに比べ危険度は低いそうですが、空間が捩れ曲がって迷路になっていると言っていました。
 一歩間違えると聖界でなく、魔界に行ってしまうかもしれません。人間界に戻ってくることもあるかもしれません。或いは永久にそこを迷う可能性もある危険な場所だそうです。

 ……。それでも風花さんとネイリーさんは行くんでしょうね。
 あなた方は意思の強い方。どのような危険が待っていようとも自らその地に赴く。大切な息子のためにアイスデスゾーンに行って下さった方ですから。
 
「これを」
 
 辰之助はテーブル上に方位磁針だと告げ、それを置いた。
 とても変わった方位磁針だった。方位磁針のくせに方角が記されていないのだ。それだけではない。これには磁針もないのだ。中央部に黒光沢帯びた石が埋め込まれているだけ。こんなもの方位磁針と呼ぶ価値もない。
 
「教えて下さった方から譲って頂きました」
 
 辰之助は方位磁針を手に取り、これはただの方位磁針ではないと説明する。
 方位磁針の名はエグザクトコンパス。聖界の土が混ぜられた魔石が埋め込んである魔具。これをミステリーデスゾーンに持っていくと自ずと聖界への方角を指し示してくれる優れものだと妖怪は淡々とした口調で言う。
 彼は二人の答えを見越して、これを相手から貰ってきてくれたのだ。

 風花は辰之助からエグザクトコンパスを受け取り、それをジッと見つめる。これが聖界を指し示してくれる魔具。自分達の命を繋ぐ大切なもの。大切な者達と会う道具。壊さないよう、大切に扱わなければ。
 「ありがとう」風花はエグザクトコンパスを優しく握り締めて辰之助に礼を告げた。




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あきゅろす。
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