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07-04


 
 郡是は経緯を話す。
 
 命令に反感の念を覚えた兄姉から異例子を引き剥がそうと実力行使に出た直後、異例子を守ろうとした兄が魔封の魔法陣を砕いてしまった。以前、目の当たりにした異例子と同じ臙脂色のオーラを身に纏い、必死に弟を守ろうとした。
 そのオーラを纏っている時の兄の動きは超人の域だった、と。
 
「自室に逃げ込んだのですが力尽きたようで」
 
 自分達が自室に入ると、兄は高熱を出して気を失っていた。弟もまた魔封の枷と魔法陣を砕いて気を失っていた。現場は一時騒然となったと郡是は説明する。
 
 二人の報告をあらかた聞いた菊代は大きな懸念を抱いた。
 異例子の兄・鬼夜螺月が弟と同じ力を発揮した。ということは異例子の力は個人的なものではないということだろうか。
 
 「今、彼はどうしているのです?」兄の容態と状況を尋ねる。
 
 西総合病院に搬送されたと郡是はすかさず答えた。
 こちらで手配した医師が大事をとって二、三日病院で療養した方が良いと判断したのである。命等に別状は無いが体温と魔力が異常なまでに昂ぶっているため、それを鎮めるためにも病院への療養を判断された。

 現在、兄は一度も目を覚ましておらず、姉が介抱に当たっている。


「異例子並びに兄の発揮した力に対する被害は出ておりませんが…、これは一大事にございます、菊代さま。兄が異例子と同じ力を持つなど。彼はただの天使のはずにございます。なのにまさか…」
 
 
 異例子は秘めた力を持っている。
 
 その力が感情の昂ぶりなどにより暴走すると魔法陣を無効化にする。または天使や聖人には持っていない力を放出する。一個人の能力だと判断していたが、天使から生まれた人間の兄が同じ能力を発揮した。一大事どころか北大聖堂事件に匹敵するほどの大事件だ。
 だとすれば血を分けた姉にも同じ力が宿っていると推測するのが筋。あの三兄姉は周囲と異なっている能力を秘めている。このまま野放しにするのは危険なのではないか。

 当時の状況を思い出しては眉間の皺を濃くする郡是に代わり、今度は千羽が口を開く。


「菊代さま。異例子のプリズン(仮牢)行きを撤回することはできないでしょうか? いくら何でも今回の御命令は唐突過ぎました。僭越(せんえつ)の意見ながら向こうが反感の念を抱くのも仕方のないことだと思います」

「千羽」
 
 
「秘めた能力のことよりも彼等の気持ちを優先させるべきではないのでしょうか。
鬼夜柚蘭殿、螺月殿は異例子という家族を深く愛しております。異例子もまた兄姉に確かな家族愛が芽生えている様子。能力が感情により左右されるというのならば、なおのこと三人を引き離すべきではございません。

幾ら命令といえど彼等にも意思というものが存在しております。受けた御命令の中に『一切の面会・接触を禁ずる』とありました。これでは彼等も憤る筈です。
 
彼等の気持ちを尊重し、命を撤回することが最善の策だと思うのです」


「千羽、口を慎め」

 
 今はそのようなことを願い申している場合ではないと郡是は窘(たしな)める。
 「失礼致しました」仕方が無しに副隊長は口を閉じたが、やや不服そうな念を抱いているようだ。内心、郡是は驚き返っていた。今まで長にそのような物を申したことの無かった副隊長がこのような口をきくとは。
 
 千羽の意見に菊代はそっと綻ぶ。「過度な規律も考え物ですね」
 
「私もなるべくは彼等の気持ちを尊重を最優先にしたい。しかし私は長。残念ながら優先すべき事がございます。……聖界は規律に過度な面がございますね。潔癖症、というべき面かもしれません…。幹部に鬼夜螺月の件の報告は?」

「しておりません。逸早く菊代さまに御報告をと思いまして」
 

「では郡是隊長、千羽副隊長。今しばらくこの話は内密にしておいて欲しいでございます。幹部にも報告してはなりません。事が済み次第、必ず二人のもとに足を運びます。必ず」


 そう命を下す菊代の瞳は哀れみの光が宿っていた。
 



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あきゅろす。
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