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07-03


 
「今は我々の監視下に大人しく身を置いてはおりますが、感情が昂ぶるとどのような力が放出されるか。なにせ儀式を無効にした子でございますから。長として民や身内を危険に曝すわけにはいきません」

「もう13年…、14年も前になりますね。その事件は。今でも原因は分かっていないというところが…、確かに懸念を抱かざる得ないでしょうが」


 碧子は異例子と呼ばれた子を思い出していた。
 
 こちらから見ればただの人間の子供だった。魔法もろくに使えない。高い身体能力があるわけでもない。一つの武器に二つの異名を持つ変わった子供だった。
 いや何の変哲も無い“ただの子供”だからこそ、潜在能力に懸念せざる得ない。神聖な儀式を無効にした末恐ろしい子供なのだから。
 そういう子供こそ四天守護家の糧にするべきなのかもしれない。少しでも道を間違えれば、彼のような子こそ第二のパライゾ軍を作る可能性が大きいのである。
 
 現に菊代の報告によると異例子は四天守護家の掟を平然と破って魔界人と繋がりを得ていた。大罪と知っているであろうに、かの悪名高い“魔界の三妖女”と繋がりを得ていたのだから可能性の懸念を増大させる。

 異例子を聖界の糧にするべきか。はたまた早めに災いの芽を摘むべきなのか。


「北風の悪魔は今、何処に?」

  
 碧子の問いに菊代は人間界で暮らしていると返答。今は何をしているのか、係わる気にもならない。
 投げやりな菊代の答えに抹消するべきなのではないかと意見する。

「聖界人と繋がった魔界人は抹消する。それが掟にございますよ? 菊代。抹消すれば異例子がまた何か秘めた力を暴走させるかもしれませんが。内密に事を進めることもできます。抹消するべきです。パライゾ軍が欲しているなら尚更ですよ」

「碧子に同意見じゃ。菊代、北風の悪魔は処分するべきじゃ。異例子は監視下におるんじゃろ? ばれることもなかろうに。お主はやや優し過ぎる面がある。それが行く行く後悔する羽目になるかもしれんぞ」
 
 菊代の対応を厳しく指摘し、遼地は和陽に視線を投げた。

 
「着実に反聖界派や聖界に相応しくない者がワシ等の手に落ちている。奴等をどう処分するんじゃ? 和陽。捕まえてほいほいと全員に“聖の罰”を執行する、じゃあ民達もどう思うか。“聖の罰”は軽いものじゃないぞ」


 率直な疑念に和陽は応える。
 

「まずは奴等の拘束と取調べからだろうな。危険度の高い人物は“聖の罰”を執行する。その際、最初の執行は北大聖堂事件の主犯。暴動の責任を取ってもらわなければならない。何より見せしめが必要だ。今後このような暴動が無いように」

 
 

 
 大会議室の扉が開かれ、各族長が部屋から出て行く。
 
 最後尾を歩いていた菊代は今日の族会談に疲労を覚えていた。小さな溜息をついて頭に挿している菊のかんざしを抜き、挿し直す。
 三対一の意見結果により異例子と繋がっていた魔界人の処分をせざる得なくなった。菊代は気が進まないと軽く目を伏せる。これを知れば異例子はどれほど憤るか。魔界人との繋がりを赦すわけではないが、過度な掟にも些か問題がある。
 

 魔界人の抹消に気鬱の念を抱いていると、向こうの回廊に鬼夜直下・第五隊聖保安部隊の隊長と副隊長が立っていた。

 
 揃って菊代のもとに早足で歩み寄って来る。何やらワケ有りな顔だ。

 
 菊代は人気のない回廊まで彼を誘導した。誰もいないことを確認すると二人はその場に片膝ついて、「御報告します」と菊代を見上げた。
 報告内容に菊代は頭痛がした。鬼夜幹部が自分の承諾なしに異例子とその兄姉を引き離したのである。てんてこ舞いになっている自分の代わりに身内を幹部に任せたのだが、まさかそのようなことをしてくれているとは。
 聖保安部隊に罪はない。幹部の命令は彼等にとって絶対なのだから。

 こういう時、長候補がいれば自分の負担もさぞ軽くなるだろう。早く我が一族にも長候補を立てなければ。
 重く溜息をつき、異例子はプリズン(仮牢)に入っているのかと尋ねる。肯定の返事を返す郡是は大変なことになったと眉根を寄せた。
 

「異例子と同じ力が兄にも出たのです」

「同じ力? …それはどういうことにございますか?」
 




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