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07-02


 
「外道を歩み極めよって」

 頭痛がする、こめかみを擦って呻く和陽の隣に腰掛けていた狐夜の長・狐夜碧子(きつねやみどりこ)はパライゾ軍の中に己の一族の者がいることに、しかも副頭になっている憤死する勢いだった。
 気持ちが爆ぜた碧子は目前の硝子作りのテーブルを割らんばかりに叩き、腰を上げた。
 
  
「有るまじき事でございます! まさか“パライゾ軍”の中に、四天守護家が交じっていようとはっ…今すぐパライゾ軍の討伐をするべきです!」

「碧子、皆、気持ちは一緒にございます。しかし今は気を静めて。北大聖堂事件のことで今はこちらも両手が塞がっている状態でございますよ」
 
 
 鬼夜の長・鬼夜菊代の指摘に分かっていると鼻を鳴らし、碧子は荒々しく椅子に座りなおした。相も変わらず癇癪持ちだと、付き合いの長い菊代は音無く息をつく。
 
 気を取り直し、虎夜の長・虎夜遼地は和陽に一連の事件とパライゾ軍の関与性について問う。
 パライゾ軍の面子については確かに問題すべき点。四天守護家族長として辱めなければならない。だが今は北大聖堂事件を解決することが最重要。なあなあにすべきものではない。聖界は動乱に包まれつつあるのだから。
 
 ご尤もな意見に和陽は一つ頷く。
 

「一見関与性のない二つの問題だ。
しかし懸念しておかなければならないと思ったのだ。今回の暴動は反聖界派による事件。我々は今まで反聖界派を目の届く場に連れ戻し監視を行ってきた。それはパライゾ軍が魔聖界に反感の念を持つ者を仲間にしているからだと情報を得ていたからだ」


 これでもう分かるな? パライゾ軍の話題をこの場に出した理由が。
 中心核が元四天守護家の天使だとするのであれば、今回の事件を見逃す筈は無い。奴等は何より人材を欲している。反聖界派を仲間に入れ、組織の規模を大きくする可能性は十二分にある。
 
 それだけではない。
 
 今回の暴動は第二のパライゾ軍を作る契機になるかもしれん。十人十色の世界だ。万人が聖界を快く思っているとは思えない。
 特に『百と一の精神』が唱えられている一の立場の者。彼等は諸事情により一の立場に追いやられている。肩身の狭い思いを味わえば味わうほど、聖界に不満と不信を募らせるだろう。事件を契機に不満を爆ぜさせ、武器を手にする者達もおるかもしれん。
 
 だからこそ竜夜は声明させてもらった。
 
 反聖界派の討伐の決意と聖界に相応しくない者、いずれ反聖界派に肩入れしそうな者の拘束、アウトロー・プリズン(地下牢)への禁固、“聖の罰”の執行を。単に反聖界派の芽を摘むわけではない。パライゾ軍にこれ以上の力を与えてはならないのだ。
 
 聖界の人口密度を考えると反聖界派など一握り。
 百と一の精神の観念から見た時、我々は将来の聖界と不安を抱えている多くの民達のために輩を斬らなければならない。
 
 
「パライゾ軍は積極的に魔聖界に反感を持つ者を仲間に入れようと目論んでいると聞いた。聖斥候隊によると今の奴等の一番の狙いは“魔界の三妖女”と呼ばれた魔界人。それぞれが魔界を飛び出している。菊代の報告によると“北風の悪魔”と呼ばれた悪魔が既に接触をしているそうだな。しかも菊代、お前の身内が魔界人と」


 話題を振られ、菊代はやや疲労を含んで答を返す。
 

「ええ。鬼夜の問題児が魔界人と繋がりを持っておりました。北風の悪魔とは恋仲という耳の痛い関係。察しはつくと思うのでございますが問題児の名は異例子」

「ウム、例の“聖の罰”を無効にした奴じゃな? 確か鬼夜琴月の孫じゃったはず」

 
 遼地の問い掛けに菊代は小さく頷く。
 具体的な内容は聞けていないが異例子は北風の悪魔と共にパライゾ軍に接触した。
 碧子はやや冷ややかに物申す。具体的な内容が聞けていない、とはどういうことだ。怠っているのではないか。
 
「核心に触れようとすると秘めた力が暴走するのでございます」

 菊代は静かに返答した。




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あきゅろす。
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