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荒れる族会談


 

 ―聖界中央(セントラル・ブロック)―
 

 聖界最大規模の面積を持つ世界の象徴中央大聖堂の三階南棟、大会議室にて。
 
 連日のように行われる族会談は日に日に統括が目立ちつつあった。しかし本日の族会談は一味も二味も違う内容にあった。
 
 過重な空気間の中心にいるのは四天守護家の各族長。各々五百はとうに過ぎている四人の大天使が異様なまでに重々しい空気を作り出している。
 中でも四天守護家の大族長であり、竜夜の長を務めている竜夜 和陽(りゅうや かずひ)は頭一つ分に重い空気を周囲に放っていた。それはまるで聖界の現状に憤怒を示しているよう。口に出さずとも彼の怒りは心中に察する。

 しかし和陽の怒りの矛先は現状にあらず。
 持ち前の闇夜の瞳をぎらつかせながら顎に指を掛け、「なんたる失態だ」和陽は軽く目を瞑り、忌々しく口を開く。
  
 
「反聖界派の暴動が聖界の民達に畏怖の念を抱かせている。
それだけでも四天守護家の信頼は民達に多大な疑念を抱かせているというのに、まさかパライゾ軍の中心核がこやつ等だったとは。聖斥候(ひじりせっこう)隊の情報に憤りを覚えるばかりだ」
  
 
 魔聖界に最高レベルの警戒心を抱かせる少数反乱軍、パライゾ軍。
 
 二世界は少数組織の圧倒的な力と横暴な振る舞いとその脅威に懸念を抱き、停戦を結んで度々少数組織の対策と情報交換を行っている。
 しかし聖界は魔界と停戦を結びながらも向こうと少しでも差と有利を付けるため、独自に少数反乱軍の素性を調査していた。聖斥候隊と呼ばれる隊を密かに魔界や人間界に送り込み、得体の知れぬ組織の素性を暴こうと躍起になっていたのである。
 
 長年の調査が実を結んだのはつい先日。聖界を騒がせている北大聖堂事件が起こった四日後の夜のことだ。
 待ち望んだ素性に大族長は愕然と絶望の両方に襲われることとなった。それは他の族長も一様である。

 和陽は皺の寄った眉間を更に深いものにする。
 

「パライゾ軍を纏めている頭が竜夜雅陽。副頭が狐夜赤祢(きつねやあかね)。頭の最も補佐人を務めている竜夜鉄陽。他の四人の素性は各魔界人だろうだが…、なんということだ。聖界人が三人も、しかも一般天使ではなく四天守護家の天使が三人もパライゾ軍に身を置いているとは」
 

 しかもパライゾ軍を立ち上げた中心核が元竜夜の長候補達とは。恥じるべきなのか、絶望感に浸れば良いのか、今の和陽には分からないでいる。


 長候補だった竜夜雅陽。竜夜鉄陽。

 今や竜夜の恥辱として名を挙げているが、竜夜雅陽はかつて元竜夜一族の第一長候補だった男。
 生まれ持つ神々しいその天賦の才能に誰もが息を呑み、二つの異名を持った子供として“神童”と謳われていた。行く末は必ず次の長の座に腰を据えるのだと誰もが信じていた。
 
 竜夜鉄陽は周囲から“おとぼけ”と呼ばれ、実力はあるのに何をするにもおっちょこちょいをしでかす男ではあったけれども、和陽は鉄陽の秘めた才能を見透かしていた。そしてそのおっちょこちょいという聖界各は演技だと見抜いていた。
 第二位長候補に選んだ時、和陽は鉄陽の将来性を信じていた。必ずや演技を止め、将来の長の補佐をしてくれるであろうと。


 しかし奴等は物の見事に和陽の信用を裏切った。
 

 雅陽は長の座を一蹴し、鉄陽と共に大罪を犯した。
 
 二人が犯した大罪は重宝庫の放火。数千と眠る重要書物や魔具の置いてある宝庫を彼等は焼き払ったのだ。大罪を犯した際、奴等は逃げも隠れもせず、その現場に留まっていた。まるで見つかることを望んでいたようにやって来た衛兵に向かって二人は意気揚々と言い放った。『大罪を犯した』と。
 重宝庫の放火が何を意味するか分かっていたであろうに、二人は燃え盛る炎を見つめ子供のように綻んでいたそうだ。
 
 今でも和陽は憶えている。
 二人が“聖の罰”の一つ、聖の堕落を受ける時の表情を。意味深な台詞を。
 



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あきゅろす。
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