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「躊躇うさ」




 さて一方、戦闘のすべてを押し付けられたパライゾ軍は未だ唖然としていた。


 逸早く我に返った鉄陽はありえないと素っ頓狂な声を上げた。
 自分の上に前触れもなく落ちてくるだけでなく、痛い思いをさせただけでなく、人に厄介事を押し付けとんずらしたなんて! なんて人達だ! まさに悪魔! いや一人は悪魔だけれど、それにしたって酷い仕打ちだと鉄陽は嘆いた。

 さぞ元帥も腹を立てていることだろう。鉄陽は雅陽を一瞥。彼は二人が走り去った方を見つめ、ニヒルチックに笑っていた。


「あの女、抱いてみてぇな。最近ちっとも女に触れる機会がねぇしな。泣かしてやりてぇ」

「……。ああもう、貴方って天使はほんっと欲の強い人なんですからもう」


 鉄陽は頭を抱えた。この男は頼れるが、自己チューだとか、気に入った女に対しては女癖が悪いとか、なにかと性格に難があったりなかったり。こういった面を直してもらえれば素直に尊敬もするのだが。
 溜息をつく鉄陽の余所で雅陽はペロッと口角を舐める。「憂さ晴らしがしたかったところだ」シニカルに笑い帥はゆっくりと腰を上げ、天使達に目を向けた。


「今日の俺はすこぶる機嫌が悪い。なにせどっかの誰かさんのせいで散々歩かされた上に野宿なんざ強いられたんだからな。しかもそいつはちっとも俺の胡散を晴らさせてくれねぇ」

「よく言いますよ。人に何発も拳骨入れておいて」
 

 ボソッと愚痴る鉄陽の言葉など耳に入らない雅陽は目を細めて薄ら笑い。
 
 「逃げるなら今のうちだ」右の手に日輪のクレイモア、左の手に霧の短剣を召喚する。そして鉄陽に手を出すなと命令。これは自分の獲物、憂さ晴らしを邪魔したらタダじゃ済まさない。
 「はいはい」分かりましたよと鉄陽は肩を竦め、向こうの木に背中を預けた。今回は大人しく見物させてもらうと微笑を見せた。それはそれは胡散臭い、というより危険な嘲笑。
 鉄陽には結果はもう見えているのだ。獲物とされた者達の勝敗が。獲物に同情さえ覚える。


(雅陽、何分で片付けるでしょうね)


 せいぜい楽しい惨劇を見せて欲しいものだ。目を細めた鉄陽は悪意を込めて、微笑んだ。




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あきゅろす。
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