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06-19


 

「魔界の女は大体そういうことヤッちまってる」


 それが遊びって場合もあるし、生活のためってのもあるし、カモるためってのもあるし。事情は色々だねぇ。なにより生きるためって理由が一番だと思うよ。あたしも遊び半分、でもどっかで生きるためにヤッちまってたんだろうねぇ。
 
 あかりは何が生きるためって思うかもしれないけど、魔界は弱肉強食の厳しい世界。ちょっとでも弱味を見せれば背中を刺される世界さ。
 その中で信頼できる奴を作ったり、見つけたりするのはとても難しいんだ。信頼しても直ぐ裏切られるし、身包み剥がされちまうし、下手すりゃ殺られちまう。常に気を張っとかなきゃいけない世界だよ、魔界って。
 女は特に狙われやすいんだよねぇ。男よりかは力が弱いしさ。
 
 そんな世界の中で生きてると心労も溜まるし、人の温もりに対しての餓えも出てくる。
  
 一応あたしにも信頼できる家族ってのはいたけど、信頼できるのは家族だけ。他人に対してはいつも気ばっかり張ってさ、強さだけが物を言える。
 これから先も気を張って生きていくのかって思うと気鬱になってねぇ。これからを生きるためにあたしは探してた。確かな信頼ってヤツ。確かな居場所ってヤツ。確かな繋がりってヤツ。

 だから色んな馬鹿なこともしたよ、ほんと。
 

 だけど魔界じゃ見つからなかった。心許せる恋人どころか、ダチさえも見つからなかったよ。
 

 みーんなあたしの、“魔界の三妖女”の強さをお目当てに群がる。
 時に周囲から怖じられたこともあったさ。あたし、これでも魔界で最凶女と謳われた三人のひとりだしねぇ。怖じるのは当然だろうけど、寂しかったってのが本音だよ。
 

「だからさ。人間界に来て良かったと思ってる。こうやってあんたや手毬達とダチになれたし、ダーリンとも出逢えたしねぇ」

  
 フッと笑みを浮かべる風花に微笑を返し、あかりは率直な疑問を投げ掛ける。


「風花さん。なんで菜月くんとはお子ちゃま恋愛してるんですか? 大人な恋愛してるなら、こう、グワーっと!」

「あんたねぇ…。菜月の恋愛の疎さを知ってるだろ? 手を出せるわけないじゃないか」

 
 いや、手を出そうと試みたこともあった。悪魔の本能に従って頑張ってみたこともあった。
 だけどあいつ、キスしようと顔を近付けても、人の気も知らないで『なあに?』とか言ってくるし。押し倒しても甘えたいって勘違いしたのか『よしよし』って頭を撫でてくるし。
 こうなりゃその気にさせようって風呂とかに誘っても『俺は男だからぁあ!』って赤面しながら逃げられる始末。さすがにあたしに魅力が無いのか? え? ってキレたくなったよ、マジで。
 

「いっちゃん驚いたのは菜月、真面目にそういうことに関して知識が無いってこと。あいつ、赤ちゃんはコウノトリが運んでくるものだと信じてるよ」

「え…ええぇー…そんな。まさか。菜月くん、頭が良いじゃないですか。単にからかわれたんじゃ」


「これはマジなんだって! あいつ、コウノトリが赤ちゃんの種を母親の腹に運んでくるんだって信じてるんだよ! 誰に教わったのか聞いてみりゃ、じいさまだっていたく真面目に言うし」
 

 同居してたら分かるけどあいつ、あたし並み…、いやあたし以上に人と関わりを持った事がない。
 人に対しては社交的だけどさ、結局は上辺だけなんだよね。大人ぶってる子供っていうのかねぇ。結構世間知らず。そんだけじいさまが自分の世界のすべてだったんだろうね。あたしが初めてらしいしね。友好的な関係を持った女の子。
 
 「だからってあの知識の無さはないよな」重々しく溜息をつく風花の話を黙然と聞いていたあかりだったが、ふと納得したように頷いた。

「なんとなく菜月くんが風花さんの世界観を広げようとしていた理由が分かった気がします」
「え?」

 急にどうしたのだと瞠目する悪魔に構わず、あかりは話を続ける。




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あきゅろす。
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