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06-17


 
 *
 
 
 たっぷりとゲーセンで時間を潰した風花は夕暮れの刻になると冬斗達と別れた。
 
 今日という楽しい時間を作ってくれた彼等に何度も礼を告げ、あかりと共に彼女の家に向かう。
 風花自身、友人の家に泊まりに行くなんてことが初めてなものだから些か緊張気味。失礼が無いようにしないと、自分はすぐ地が出てしまう。御家族には嫌われたくない。悪い印象も持たれたくない。
 
 できるかぎり友好的に、だけど店の宣伝は忘れずに。

 無限休業している分、客足は少なくなる筈。ここは友好関係を築いて店に来てもらおう。あわよくば依頼してもらおう。ちゃんとお得意様の御家族だってことを考慮して、依頼料は安くするつもりだ。お得意様の御家族なら半額程度にまで料金が下げられる筈。
 
 うんうんと頷く風花はすっかり商売人の顔だった。
 
 
 あかりの家は極々普通の一軒家。二階建。周囲の民家に溶け込むような暖かな造りをしている。
 本人曰く、「古いんですよ」らしい。十分立派な家だと思うのだが。彼女の家の敷地を跨ぎ、風花はあかりの家にお邪魔する。その際、「お暇します」と言ったものだからあかりに笑われた。それでは帰る意味になってしまう、と。


「だって日本語難しいんだもん」


 脹れながら玄関から居間に移動。そこにはあかりの母と妹が揃ってソファーに腰掛け、パリポリと音を鳴らしながら煎餅を食べて寛いでいた。
 どちらもあかりに似ている。特に妹は雰囲気は勿論、顔の面影もよく似ている。

 娘の帰宅に気付いたあかりの母は慌てて食べ掛けの煎餅を口に突っ込み、お茶で流し込んでいた。
 腰を上げると素早く身形を整え、ニッコリと笑顔。あかりの母は自己紹介と挨拶をしてきてくれた。


「風花さんですね。お話には聞いています。私、本条 都美子(ほんじょう とみこ)です。娘のあかりがいつもお世話になっているそうで。
それにしてもまあ、フランス生まれのフランス育ち、イタリアやドイツを転々として日本にやって来た外国人さんとは聞いてましたけど美人さんなこと。銀髪は地毛なんですか? 見たところ染めてるわけじゃ…。

ああっ、大変! 風花さんが困ってる! 私ったら難しい日本語使っちゃったかしら、あかり。もっと優しい言葉で話した方が良かったかしら。
でもね、私、英語はできないの。簡単な英語ならできるけど。How are you ?(お元気ですか?)」


 カチンと固まっている風花にあわあわと都美子が英語で喋り掛けてきた。勿論風花が固まっているのは都美子の挨拶に圧倒されたからであって、日本語が分からないというわけではない。英語で語り掛けられても風花自身が困るだけだ。
 「お母さん!」慌てる母を落ち着かせ、あかりはたっぷりと溜息。風花は日本語がぺらぺら、固まっているのは母が一度に多く喋ったせいだと原因を指摘。すると都美子は安堵したように胸を撫で下ろし、改めて挨拶をしてくる。風花は微笑を返した。


「今日はお世話になるよ。じゃない、えーっと、お世話になります」

「どうぞ気軽に。あかりからよくお話を聞いています。あかり、風花さんのことをお姉さんのように慕っているんですよ」

 
 「お母さん!」余計な事は言わないでと頬を紅潮させているあかりに本当のことだから、と都美子は笑う。あかりは羞恥を噛み締めているようだが否定しないところからして本当のことなのだろう。
 ぷいっと母に顔を背け、自分の部屋に案内するとあかりは風花の背を押した。これ以上、居間にいると家族にもっと自分のことを話されてしまうと思ったのだろう。
 
 と、それを制すようにあかりの妹・本条ひだまりは姉に向かってこう一言。
 

「お姉ちゃん。風花さんのこと、いっつも『悪女で無鉄砲だけど憧れの人』って言ってるよね!」

「ひだまり!」
 
 
 ペロッと舌を出し、ひだまりはそそくさとテレビに視線を戻してしまう。
 
 また余計な事を言われてしまった。あかりは苦虫を噛み潰したような顔を作り、「悪女で無鉄砲って何さ」風花は反論しつつも盛大な笑声を上げた。「笑わないで下さい!」不貞腐れるあかりの頭に手を置き、風花はまた一笑した。
 無鉄砲や悪女という単語は頂けないが、こういう風に家族に自分のことを話してくれている。それが妙に嬉しかった。勿論、こんな小っ恥ずかしいこと、口が裂けても言えないが。
  



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あきゅろす。
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