06-16
(仲間を悪く言われて憤怒するなんて…、すげぇ良いの、見たな)
荒川に憤りを感じていたが、その気持ちは既に霧散している。
今は感謝したい。彼に教えてもらった気がするのだ。友達を大切にしろ、仲間を大切にしろ、自分と繋がっている者達を大切にしろ、そう彼が教えてくれた気がする。
風花は子供達に目を向ける。
「あー驚いた」乱れた学ランを直している雪之介に、「災難だったな」冬斗は失笑し軽く背を叩いて声を掛けている。あかりと手毬も交互に大丈夫かと妖怪に声を掛け、怪我はないかと心配を見せている。
彼等はさり気なくだがいつも自分の元を尋ねてくれた。
各々が毎日自分の元を訪れてくれたわけではないけれど、毎日のように誰かが自分の傍にいて支えてくれた。今日もそう。根詰めている自分の元気の糧になってくれようとした。
自分は強くなろうなろうと気ばかり焦らせていた。
だから忘れていた。彼等のような支えがいてこそ、自分は集中してトレーニングができたのだと。
彼等がいなかったら、自分は孤独に押し潰されていたに違いない。自分は人三倍孤独に弱い、彼等がいなかったらきっと一生ウジウジして事に嘆いていたに違いないのだ。
こうやって手腕が取り戻せたのも、心が安定しているのも、依存していた少年を極自然に想うことができるもの、彼等がいたからこそ。
根詰めていたせいか、自分は周りが少しばかり見えていなかったらしい。
息抜きが無駄ではない、必ず糧になるという意味はこういう意味だったのだ。スケルちゃんの言うことは正しかった。
改めてかけがえのないものを手に入れているのだと風花は実感する。独りではない。魔界では手に入らなかったものを自分は手にしている。人間界で素晴らしい友を、誇れる友を自分は手にしているのだ。
(菜月。我が儘で気難しいって言われてたあたしに、こんなにも信頼できる繋がりが増えるなんてね。皮肉な事にあんたと離れて気付くよ。こいつ等の大切さ)
人間界に来た当初は少年のことしか信頼ができなかったというのに、気付けばこんなにも繋がりが増えているなんて。しかも繋がりの大切さを改めて知る契機が大切な人と離れ離れになったことだとは。
今も思っている。自分は少年依存症だと。寂しさが胸を突いた時、どうしようもなく彼の優しさが恋しくなる。やっぱり一番傍にいて居心地が良いのは少年だし、傍を離れることによって「目移りしてたら」とか「言い寄られていないか」とか余計な憂慮を多々抱いてしまう。
それでも、それでもだ。
風花は四人の輪に入り、まずは雪之介に大丈夫だったかと声を掛ける。
「災難でしたよ」大丈夫だと言う代わりに、妖怪はペロッと舌を出して見せた。そんな妖怪に一笑すると風花は四人の背を押し、早速やりたいことがあると歩き出した。煩わしいBGMを聞き流しながら彼等と向かうのは、思い出作り機。
初っ端からプリクラか…と、男子達のゲンナリした声が聞こえたが(曰く男にとってプリクラは小っ恥ずかしいものらしい)、風花と女子達は構わず彼等を引っ張って中に入る。
女の機械音声が迎えられながら風花はあかりから百円玉を数枚渡してもらい、投入。
「あんた達はあたしにとってメイッサだからねぇ。まずは思い出作りしたいわけさ」
「メイッサ? 何ですか、それ」
あかりの疑問に「今のは魔聖語」シシッと笑顔を零しながら、風花は四人を中央に固めた。
皆が入れるように中央にぎゅうぎゅうに寄りながら、四人はしりきに“メイッサ”の意味を聞いてくる。風花は撮影カメラを注目しながら、カウントダウンを取る機械音声に耳を傾けながら“メイッサ”の意味を教える。
意味を知った数秒後、五人は撮影カメラに「メイーッサ!」と口を揃え、カメラに向かって大きくピース。
【メイッサ】
▽意味
1.結びつき。関係。
2.重要・または主要な繋がり。
3.自分にとってなくてはならない繋がり。
(魔聖用語辞典より)
それぞれの出逢いは偶然。悪魔に妖怪に人間に、もしかしたら些細な擦れ違いで各々出逢えなかったかもしれない。
偶然の大切さを知っている、だからこそ、それぞれがそれぞれメイッサ。
なくてはならない、大切な繋がり。
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