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06-15




「俺が一階に来たら何か不味いことでもあンのか? 最近、俺等の噂が極端に悪いから疑問には思ってたが…、そういうことか。なあ、知ってっか? 俺の一番嫌うこと」
 
 
 ゆらっと歩みを開始する荒川は、雪之介の胸倉を掴んでいる不良の手首を掴み手早く捻りあげた。小さな悲鳴を上げる不良の背を蹴り飛ばし、荒川はギッと輩達にガンを飛ばした。

「テメェ等がしでかしてくれたことで、俺だけじゃなく、俺の仲間までが悪く言われてンだよ」

 いいか、俺は自分のことを悪く言われる以上に仲間を悪く言われるのが嫌いなんだよ。一番嫌いなんだよ。
 俺の仲間は個性的で馬鹿ばっかだが、無関係の奴等からカツアゲなんざ卑怯な真似、誰一人しねぇ。そりゃ誰より俺が知ってる。

 覚悟しろよ。俺の名を語って姑息な真似した奴が無事でいられると思うな。


「先に喧嘩吹っ掛けてきたのはテメェ等だ。簡単に事が済むと思うな」

 
 彼が片足を右に大きく振ったのはその直後のこと。
 連れの少年はあたふたと荒川の通学鞄を持ちながら、挙動不審に周囲の目を気にしている。
 


「よ、ヨウ。手加減はしてやれよ。お前、昨日も二人、病院送りにしてるんだから。あんま騒動を起こしたら警察沙汰っ…。
うわっ、馬鹿、その攻撃は! ああっ、ああぁー…。あっちゃー…。今のはイタッ…。うん、ご愁傷様でした」


 
 合掌する少年の傍で、「張り合いもねぇ」軽く手を叩いて伸した相手を見下ろす荒川は通行の邪魔になっている残骸を店の隅に寄せた。
 「後でもっぺん伸す」これで気が済むかよ。鼻を鳴らし、荒川はカツアゲにあっていた雪之介に声を掛けた。

「大丈夫か?」
「ありがとうございます。助かりました」

 ぺこりと雪之介は頭を下げる。拍子に眼鏡がずれたが、それを押し上げて彼に礼を告げる。荒川は気を付けろよ、と一笑。


「このゲーセンはごろつきの不良が多いからな、気を付けろよ。ゲーセンの店員も不良は放置してっから。ったく、俺の名前を出しゃ何でもできると思ったら大間違いだぞ。俺の仲間は不良で馬鹿バッカだけどカツアゲなんざ姑息なことする奴いねぇから」


 それだけは憶えておいて欲しい。 

 雪之介の肩に手を置くと、「マジ腹立つぜ」荒川は早足でケイと呼ばれた少年に歩み寄る。
 彼から通学鞄を受け取り、腹が立つ繰り返してケイの首に腕を回す。ケイは見るからに不良と絡むようなタイプの少年ではないのだが、寧ろパシリにされそうな少年なのだが、「お疲れ」と親しげに微苦笑していた。


「マジないよな。俺の名前ばーっか出しやがって。俺、すっかり悪者じゃねえか」

「そんだけヨウが有名人だってことだろ。イケメン不良も辛いよな。けど、だーいじょうぶだって。お前一人じゃない。必然的に俺も悪者だって。俺達、いつだってセットにされるんだから。俺とヨウは舎兄弟だし」

 
 「そりゃそうだ」笑声を上げる荒川はケイと呼ばれる少年と共にエスカレータをのぼっていく。不良の巣窟となっている三階フロアに行くのだろう。

 風花は彼等のやり取り、そして不良の放った台詞を反芻していた。気持ち的に不思議と温かくなった。
  
 善意で助けてくれる不良に出逢えたなんてまるでドラマを見ている気分だ。

 不良のクセに荒川という少年(青年というべきだろうか)は仲間思いで男気溢れる奴だった。
 それに不良だけでなく、あんな地味でパシリにされ易そうな少年(彼も青年というべきだろう)とも親しげに友達になっている。地味少年、否、地味青年もまた、不良と親しげに友達になっている。
 
 正反対の二人があんなに仲良くなっているなんて。
 彼等には確かな友情が芽生えているのだろう。悪魔や妖怪と人間に友愛が芽生えるように、不良と地味なんて上辺だけでは彼等の関係は判断できないものだ。

 下手なドラマや映画を見るよりよっぽど良い物を見た気分になる。ああいう光景を見ると自分も頑張ろうという気持ちになる。




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あきゅろす。
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