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06-12



 風花の腕から解放されると、あかりは開いている助手席を覗き込み運転席に腰掛けているネイリーに挨拶する。

 微笑で返し、あかりに人数分の紅薔薇を手渡す。皆に渡して欲しいと言葉を付け足して。


「フロイラインを頼むぞ。あかりくん。僕というカッコイイ吸血鬼がいなくてフロイラインが泣いていたら、いつでもテレフォンOKさ」

「……。はい、任せて下さい。しっかり面倒看させて頂きますので」


 「面倒看るって何さー!」背後で文句垂れる悪魔に舌を出し、本当のことじゃないかと一笑。
 それにまた悪魔は脹れる。相変わらず見た目に反して子供っぽい性格だ。けれど久しぶりに見る。風花の子供らしい一面。大切な者達が帰ってしまってからはめっきり見る機会を失ってしまったのだから。
 風花はそういう顔が良く似合う。心中で思いながら、少女は吸血鬼に「お仕事頑張って下さい」と言葉を掛ける。
 
「でもネイリーさん、根は詰めないで下さいよ?」
 
 彼は目尻を下げて頷いた。


「あかりくんに心配を掛けるようなことはしないさ、大丈夫。君はよく僕等を見てくれているから、無理すれば直ぐにばれてしまう。怒られては堪らないしな。ほんとに君には敵わない」

 
 今日も変わらず血色の悪い青白い肌で、変わらずナルシストで、けれど今日一番の微笑みとキザな言葉を向けてくれる吸血鬼にあかりは小さく鼓動を鳴らせた。誤魔化すように「無理は絶対に駄目ですからね!」声音を張り、助手席の扉を閉める。やや閉める手に力が入ってしまった。
 気にすることなくネイリーは皆に今日一日を楽しんでくるよう言うと車を発進させた。

 あかりは去る車を見送りながら呆然。
 嗚呼、顔が熱い。火照っている。吸血鬼の言葉はああやって平然と小っ恥ずかしいことを言ってくれるものだから困ってしまう。
 
 「あかり?」手毬に声を掛けられ、「これ!」あかりは素っ頓狂な声を上げながら手毬に薔薇を押し付ける。「ちょっと!」困る手毬を無視し、風花の腕を取って大股で歩き始めた。
 

「さっ、風花さん行きましょう! まずは腹ごしらえです! 何が食べたいですか? 私達、風花さんに奢ろうって話してたんですよ!」

「え、あ、お、おう…あんがと」
 

 少女の気迫に押され、風花はしどろもどろに礼を口にする。
 ぐわっしぐわっし。効果音が付きそうな歩調で歩くあかりは早口で安上がりな物だったら多めに食べても良いから、勿論デザートも頼んで良い、捲くし立てるように告げてくる。
 忙しなく相槌を打ちながら風花はあかりの様子に、もしや…と思ったが何も触れなかった。彼女がこんなにテンパってるのだ。触れられる筈が無かった。
 

 一方、二人の後を急いで追い駆ける手毬と雪之介は目で語り合っていた。

 さっきのは、ちょっと(非常に)、不味い(甘い)、展開、だった、ような。

 何故ならばこの展開を非常に面白くないと思っている人物が自分達の傍にいるのだから。幼馴染みを(無自覚だが)好いている人物が自分達の傍にいる。二人は横目でその人物を盗み見る。
 意外な事に彼は平然と前を歩く二人の背を追い駆けていた。おかしい。普段は胸を占めるジェラシーに不思議がり、悶々と思い悩むところなのだが。
 
 
「はぁぁあ…、何だってんだ。チクショウ。むかついてる俺が一番むかつく」
 

 盛大な独り言と共に重々しく溜息をつく冬斗は荒っぽい手つきで頭部を掻いた。
 どうやらジェラシーは感じているようだ。けれどいつもと態度が違う。いつもだったらもっと、『なんで俺、こんなにむかついてんだ?』と疑問を抱き、ウガーッと感情を爆ぜるところなのだが。自分の気持ちにはまだ気付いていないらしく、「腹立つ意味がわかんねぇ」と愚痴っている。
 
 何度も溜息をつく冬斗に手毬と雪之介も揃って溜息。
 早く気持ちに気付いてくれないだろうか。自分達が指摘しても良いが彼の性格上、そう簡単には認めてくれないだろう。フザけるなと一蹴される可能性もある。こればっかりは自分で気付いてくれないと。気付いてくれたら、自分達も喜んで相談に乗るというのに。


(ふーちゃん…、ぼやぼやしてると本条さん、別の人に取られちゃうよ)

(あかりもあかりでふーちゃんには眼中無いようだし)


 ああ、もどかしいな、もう!
 
 再び手毬と雪之介は揃って溜息。早く自分の気持ちに気付いてくれ。




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