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08-08


 
 
 ガタンゴトン―。
 
  
 線路を走る電車に揺られ、風花達は目的地であるアルプス山脈麓まで目指す。各駅に停まる電車に乗車する者もいれば、下車する者も。行き交う乗客を目で追うこともせず、風花は流れ去る景色に目を向けていた。早く山脈麓に着けと思いを抱きながら。
 退屈な時間を延々過ごすのではないかと思った頃、電車は目的地がある駅に到着する。日は殆ど落ちかけていた。
 
 しかし夕暮れだとなんだろうと関係ない。こっちは長旅だったが昼過ぎまで寝ていたのだ。
 
 なんてことないと風花は駅に降り立ち、大きく伸びをして早速ミステリーデスゾーンを探そうとネイリーに申し出る。
 だが彼が麓にある町で一泊するといった。十二分に休んだではないかと非難の声を上げたが、ネイリーは空を指差し、見知らぬ地での夜に行動するのはあまりにも危険過ぎると助言。
 時間が惜しいのは分かるが時間を削るところは削り、使うところは使わなければとご尤もらしい意見を出すものだからぐうの音も出ない。
 
 仕方が無しに風花はネイリーの案を受け入れ、麓町で宿を探すことにした。
 
  
「あーあ。結局今日も乗り物で移動するだけか。ちっとも体を動かした気分になんないよ」


 「乗り疲れただけだ」項垂れる風花にネイリーは明日こそはミステリーデスゾーンを探そうと肩を叩く。
 気持ちは分かるが見知らぬ地で安易な行動はできない。細心の注意を払わなければ。ポンポンと肩を叩いて励ますネイリーはそうだ、と手を叩く。励ましに詩でも書いてあげよう。きっと気が晴れる。
 
 満面の笑顔で風花に提案すれば、「イラナイ」憮然と彼女は言った。「照れ屋だな!」ネイリーはポジティブに笑うが、彼の影の中にいたカゲぽんは救えないと肩を竦めたのだった。
 

 さて宿は何処だろう。
 

 ネイリーは道行く人に宿を尋ねようと周囲を見渡す。
 まだまだ人通りが多い。現地人を捕まえることは容易だろう。出来ることなら麗しい女性に声を掛けたい、キョロキョロと周囲に目を配っているとチクリと嫌な気配を感じた。

 たらっとネイリーは冷汗を垂らす。まさか、いや、まさかなあ。勘弁して欲しいのだが。


「フロイライン…少し予定を変更しても良いかな?」


 肩を落としている風花は青い瞳を吸血鬼に向けた。
 「予定変更?」何を変更するのだと訝しげにネイリーを見やる。彼は珍しく引き攣り笑いを浮かべ、肩に掛けていた荷物をキュッと掛け直す。どうしたのだと声を掛ければ、吸血鬼の影の中にいるカゲぽんが上擦った声で言った。近くに天使の魔力を感じると。

 目を削ぎ、風花は急いで周囲をぐるり。
 
 突き刺さるような視線にまさか、と視線をゆっくり上にあげていく。風花の視線は小さな教会の鐘楼。とんがり帽子の屋根の下、天使二人が風花達を見下ろしていた。純白のローブを身に纏っており、胸には見たこともない花の紋章バッチが付けられている。
 聖保安部隊は確か金色の翼を模った紋章バッチが付けられていた。ということはあれは別の隊? どちらにしろ自分達にとっては好い状況ではない。


「あの花の紋章は聖界の象徴トライメルカ(神に捧げる聖なる花)。聖斥侯隊(ひじりせっこうたい)ではないか!」


 しまった、彼らの存在をスッカリ失念していた。ネイリーは舌打ちを鳴らす。
 「聖斥侯隊?」どういう隊なのだと尋ねれば、ネイリーは苦々しく笑いながら説明した。


「四天守護家の直下の部隊さ。聖保安部隊と肩を並べる部隊でな、主に魔界や人間界の情報の収集活動を行っている」
 
 



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あきゅろす。
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