06-09
意気込む風花だが、「それじゃバテちゃいますよ」あかりは微苦笑を零しながら指摘。
毎日継続的にトレーニングをすることは勿論必要だが、今の風花はペース的にも気持ち的にも飛ばしている。その内、疲れが出てしまう。少しは休息を取らなければ。
あかりの言葉に大丈夫と言い張る風花だが、復活したネイリーがあかりの言うとおりだと鳩尾を擦りながら此方に歩み寄ってくる。ペースを飛ばしすぎて疲れが出、いざという時困った事態になってしまうかもしれない。少しは自分を労わらなければ。
二人の意見に悪魔は本当に大丈夫だと口をへの字に曲げてしまう。自分はそんなにやわではない。さっきはおっちょこちょいで失神してしまったが、次はヘマを起こさない。大丈夫だと言ったら大丈夫なのだ。
子供のように脹れる悪魔に微苦笑を零し、「家に来て下さいよ」あかりは今度の土曜日、家に泊まりに来てくれないかと誘う。
その日は館主のネイリーは仕事で家を空ける。スケルちゃんにはカゲぽんやゾンビ達がいるし、折角の機会だ。少しは羽を伸ばす気分で家に遊びに来てくれないかとあかりは悪魔に微笑む。
への字の口をそのままに、「でもなぁ…」と風花は躊躇いを見せる。
誘いが嫌というわけではない。
ただ、トレーニング以外のことをする。聖界関連以外のことをする。それに気が引けてしまうのだ。気を緩ませてしまっては、また、何かドジを踏んでしまうかもしれない。それこそ取り返しのつかないドジを踏んでしまうかもしれない。
ドジを踏んだから、大切な恋人や友人が聖界に帰ってしまった。
風花は常日頃から負い目を感じていた。
決してそれだけが原因で二人が聖界に帰ってしまったわけではないけれど、要因の一つとしてそれが当て嵌まっているのは確か。のらりくらりと能天気に時間を使ってはいけない気がするのだ。
大好きな人たちとまた再会するまで、自分は持てる時間の一分一秒を大切に使わなければいけない。そんな気がしてならない。
「誘いは嬉しいけど」やんわり断りを入れようとする風花の手を取って、「もう決定ですよ」あかりは笑顔を見せた。
「風花さんは今週の土曜日、私の家に泊まりに来るんです。いいですか?」
「ちょ、何勝手に」
「良いではないか、フロイライン。たまには女性同士、のんびりと時間を過ごすのも悪くはない」
今のフロイラインはそうだな、例えるならばがり勉だ。毎日毎日まいにち、勉強を頭の中に詰め込むだけの生活を送っている。本当に強くなるためには心にリラックスと余裕を与えなければならないと、僕は思うぞ?
大丈夫、何か情報が入ったら真っ先にあかりくんの携帯に連絡を入れるから、休息を入れたって罰は当たらない。行っておいで。リフレッシュすれば、また腕が上がるかもしれないぞ。
ネイリーの言葉とあかりの笑顔に返す言葉も見つからず、風花は渋々誘いに乗った。心の中ではモヤモヤした気持ちが占めていたが、二人の気持ちを突っぱね返すことができなかったのだ。
傍らであかりは口角を緩める。
風花は唇を尖らせながらも承諾してくれた。あまり乗り気ではないことは分かっているが、これも風花のためだ。毎日を我武者羅にトレーニングに費やすだけなんて、幾ら聖界の件があるからといっても根を詰めては体に毒だ。顔を渋る風花の手を握り、ドタキャンは無しだと念を押す。
「分かってるって」子供のように不貞腐れる風花に一笑しているとネイリーが肩に手を置いてきた。あかりは視線を上げる。吸血鬼は綻び、目で少女に訴えていた。銀色の悪魔を頼むぞ、と。
答えるように頷き、あかりは風花の腕に視線を落として、まずは傷の手当からだと元気よくスツールから飛び下りたのだった。
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