06-08
「あんにゃろうッ…、キスなんてされてみろ。例え寛大なあたしでも黙っちゃないッ、よ!」
ドンッ―!
くっきりと青筋を立てている風花は背に佇んでいた壁に向かってストレートパンチ。
衝撃と共に壁が亀裂が走る。床から天井にまで延びた亀裂を目で追いながらあかりは冷汗がたらり。風花の嫉妬心も以前より増している。元々嫉妬深い銀の悪魔は恋人と三日も離れたことのないらしい。
それが二ヶ月も離れてしまったら…、寂しがり屋な悪魔は寂しい気持ちを大きな嫉妬心に変えてしまうらしい。目に宿す炎はジェラシーを纏っている。
ついでにツッコんではいけないのだろうけれど、風花の性格は寛大だっただろうか?
「天使って清純そうで結構ヤラシー欲がありそうだしね。よく言うじゃん。真面目な奴ほど実はエロいって。だからきっとあーんなことや、こーんなこと…っ、…まさか…菜月…あたしとはしなかったことも…?」
「もしもーし。風花さん。現実に戻ってきて下さい」
「いやいや落ち着け。菜月は兄姉と同居してるから。しかも監視されてるらしいから。大丈夫だって。大丈夫。だいじょうぶ。だけどもしも監視の目を掻い潜って、天使に騙されて唆されてウェルカムアダルティーワールド? ―…うわぁああ! そんなっ。そんなのってぇえええ!」
「菜月が押し倒されてたらどうしよぉおお!」あたしだって押し倒したことはあるけど、それから先はしたことないっていうのに!
やや問題発言を零しながら、髪を振り乱す風花は「ダーリン欠乏症だぁあ!」おかげでネガティブ桃色わぁお妄想ばかりしてしまうと喚いている。今日も風花は絶好調のようだ。
「おおフロイライン。心中察するぞ。その悲しみを僕の胸の中で。ついでに僕と付き合ってくれたら喜ばしいのだが。キュッセン(キス)はいつでも歓迎だ」
喚いている風花の身をどさくさに紛れ抱き締める吸血鬼。悪魔の手を取って甲に口付けする。嗚呼なんて命知らずな。
ヒクリと口元を引き攣らせ、「この阿呆が!」風花はネイリーに痛烈な右フック。痛烈なその攻撃を鳩尾に受けたネイリーは、「相変わらず照れ屋さんだな」と前髪を弄くり扉に向かって飛んでいく。
凄まじい音と同時に床に伸びる吸血鬼にあかりは呆れ返った。本当に悪魔を怒らせることがお上手なことで。
「ったく。阿呆なことばっかしてもう」
フンと鼻を鳴らす風花はもう一汗流そうと首を鳴らし、ベッドから下りようとする。
「駄目ですよ」あかりはそれを制した。まだ無理は駄目だ。疲労ではないとはいえ、頭部を強打して失神したではないか。生傷だらけで怪我もしている。少しは体を労わらなければ。
「それに風花さんは無理し過ぎなんですよ。毎日のように休み無くトレーニングに精を出してるって言うじゃないですか。少しは休息をとらないと。焦る気持ちは分かりますけど…、風花さんの大大大だーい好きなテレビも観てないんでしょ? お買い物だって」
「なんっつーか…、観る気が起きないんだよねぇ。観ても面白くないっていうか。なんていうか」
テレビに興味をそそられないのだ。買い物だって同じ。テレビや買い物をするよりも体を動かしている方が気持ち的に楽。体を動かすことが一番気が落ち着けるのだと風花は語る。
それが無理に繋がっているかといえばそうでもない。
魔界にいた頃はもっと過酷なトレーニング法を取り入れていたし、聖界のことを考えると苦ではない。手腕を取り戻しはしたが、まだまだ強くならなければ。
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