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06-07


 
 二人の目に飛び込んできたのはベッドの上で横たわっている漆黒のローブ姿の悪魔。

 本来の姿に戻っているため、背にはコウモリを模った漆黒の翼が。見る限り悪魔は静かな寝息を立っているが、額には濡れタオル。頬や腕は生傷だらけ。無理が祟って倒れてしまったのだろう。
 「風花さん!」あかりは悪魔に駆け寄り、顔を覗き込んで具合を確かめる。自分は医者ではないけれど生傷だらけの体は痛々しい。すぐに傷薬を塗ってやらなければ。疲労が溜まっていたのだろう。心なしか顔が青白いような。青白くないような。


「駄目じゃないですか。聖界に行く前に体を壊すようなことになっちゃ。あれほど無理しないで下さいって言ったのに」
 

 聖界に行くために強くならなきゃいけないのは分かりますけど、体を壊しちゃ元も子もありませんよ。
 顔を顰めるあかりはスツールに腰掛け、濡れタオルを手に取ると水の張った洗面器に浸す。ギュッギュッと硬く絞っていると呻き声が耳に飛び込んできた。風花が目を覚ましたようだ。
 「ン、あれ?」風花は間の抜けた声を出し、どうして寝室にいるのだと瞬き。ゆっくりと上体を起こした。

 うっ…と呻く風花はまだ気分が優れないのか頭部を押さえている。ネイリーはまだ寝ておくように指示し、あかりの隣にスツールも運び、それに腰掛けた。 


「君は倒れたのだよ、フロイライン。休んでおかなければ」

「倒れた? …んー…記憶が…おぼろげ」
 
 
 何があったっけ。頭部を擦っている風花に、無理が祟ったのだとあかりは注意する。
 少しは自分を大事にしないと、聖界に行きたい気持ち、焦る気持ちは分かるけれど、倒れては聖界に勝つも乗り込むも何もないではないか。あかりの注意に「ごめん」と詫びを口しながらも、風花は頭部を擦って何があったんだっけと思案。グルグルと記憶を辿り間を置く。

 そして「あ、」と風花は声音を漏らし、思い出したと手を叩いた。
 
「あたし。自分の出した技のせいで気絶したんだ」
「へっ? だって風花さん、疲労で倒れたんじゃ」
 
「いやさ。あたし、いつものようにトレーニングしてたわけ」
 
 毎日のように芳しくない情報が飛び込んでさ、今日もそうでさ、何かいつも以上に苛々もやもやしていたわけよ。んで、それを忘れるために、よりトレーニングに力を入れようって体を動かしてたんだけど。
 
 ちょっとばっかし、やっぱ色々考えちまって。
 集中できない上に気持ち的にウガーッって爆発、めっちゃ力んじゃってさ。自分の出した乱れかまいたちが天井を抉っちまって、「やっべ!」って思った瞬間、抉った天井の残骸があらまぁ、あたしの頭に落ちて暗転。ってなわけさ。
 だっからさっきから頭部がズッキズキするんだよ。まだヒリヒリするもん。

「疲労で倒れるほどやわじゃないしねぇ。でも悪い悪い。心配させちまって」
「ほんとですよ。スケルちゃんとカゲぽんから倒れたって聞いたものですから心臓が凍っちゃいました。でも色々考えてたって」
 
 やっぱり恋人のことだろうか。
 風花は根っからの寂しがり屋。きっと情報が手に入らないことに嘆き、悲しみにくれ、ついつい力んで技を繰り出してしまったのだろう。心を痛めるあかりに対し、風花は笑顔を作ってグッと握り拳。青筋を立てながらも、目が笑っていないながらも、笑顔を貫き通していた。


「こうしている間にもダーリンが女に言い寄られてるんじゃないかって思ってたらさ、つい」
 
 
 いや別に? べっつに、あったし、寛大だから?
 
 向こうで女に言い寄られようとも怒らないさ。ああ怒らないとも。
 仮にあたしが向こうに行ったとして、知らん女天使といっちゃーなことや、らっぶーいことをしてさ。ちーっとも怒んないんだもんね。あたし寛大だもんね。

 女天使なんかよりあたしの方が好きだよなー? 付き合うならやっぱあたしだよなー? 三年の付き合いだもんなー? って脅し…ゴッホン。言ってやるもんね。女天使なんか突き放してやるもんね。

 執着心の強い悪魔のあたしに勝てると思ったら大間違いだぞ、似非女天使。
 

 けどなけどな、ダーリン。
 あたしにも許容範囲ってのがあるんだよ。寛大な心を持ってしてもギリギリライン抱擁までなんだよ。

 
 もしも言い寄られて唇でも奪われていようもんならッ…。


 されたんだよって言い訳されてもさ。
 やっぱさ、3年のパートナー歴、1年の恋人歴があるあたしを差し置いてキスするなんざ、されるなんざ言語道断ってモンじゃない? え? あたしがキス一つでどんだけ苦労したと思ってんだよ。あーん?




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