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06-06


 
 あかりは皿の上で飛び跳ねるビスケットを手に取り、丸々一枚口に押し込む。品がない? どうとでも言うがいい。悪いのは不意を突いてキザなことを言った吸血鬼だ。
 「そうだ」ネイリーは思い出したようにあかりに視線を向けた。

「あかりくん。今週の土曜、我が家に泊まってくれないかね?」
「え?」
 
「実は今週の土曜日、大事な仕事が入ってしまって僕は家を空けなければならないんだ」
 
 だからあかりくんにフロイラインの傍にいてもらおうと思ってな。
 あかりくんが傍にいれば、少しはフロイラインも息抜きをしてくれるんじゃないかと思うんだ。女性同士で夜を過ごせば張り詰めている糸も少しは緩んでくれる。そんな気がするのだよ。

 ああ、しかし心配だよ!
 僕がいないことでフロイラインがますます無理をするんじゃないかと! 彼女には僕という美青年の存在が必要だからな。無論僕も彼女が必要さ。彼女は美しい。見ているだけで心が癒される。
 
「カッコイイことを言ったな、僕。自分に惚れてしまいそうさ。おっとこれではナルシストのようではないか!」
 
 前髪を弄くるネイリーにあかりは遠目。十二分にナルシストだから心配しなくても良いと思う。

「……。仕事と両立しなければいけないって辛いですね」

 しかしあかりは敢えて吸血鬼のスルーをした。ツッコんでしまってはお終いだと思って仕方が無かったのだ。
 ネイリーもまた気にした素振りを見せることも無く言葉を続ける。


「聖界に行くとなれば仕事も休まなければならないからな。今の内に片付けられるだけ仕事を片付けてしまおうと思っているのだよ。後のことは別の“マスターキー”に頼もうと思ってな」

「大丈夫なんですか。そんなことしたらネイリーさんのお仕事が無くなっちゃうんじゃないんですか?」

「ちょっとやそっとじゃ仕事は消えたりしないさ。これでもクリユンフ家は業界では名の知れた方だ。それに、別の“マスターキー”というのは僕の父のことさ。それより、頼まれてはくれないかね。あかりくん」


「私は別にいいですけど。あ、だったら我が家に来てもらうってのはどうでしょうか? 此処にいると私が居ても地下に足を運んでしまいそうなので。私の家にお泊りというカタチだったら風花さんも一日のんびりと過ごしてくれるんじゃないでしょうか。昼はお買い物にでも誘いますし」


 それは良い考えだとネイリーは頷く。
 あかりの家に行けば自然とトレーニングや聖界のことも忘れてくれるに違いない。リラックスもできるだろう。では早速これを風花に提案しなければ。
 二人はお茶を飲みながら、ビスケットを齧りながら、鳴り響く地響きを耳にしソファーの上で飛び跳ねながら、風花のトレーニングが終わるのを待つことにした。
 
 数十分後。ようやく地響きがおさまる。
 やっと終わったか、二人がホッと息をつきカップをソーサーに置く。これからシャワーを浴びてこっちにやって来るだろう。二人は悪魔の訪れまであと数分は掛かると判断し、いつでも彼女が来ていいよう飲み物の準備をしようと腰を上げる。

 
 その時だった。

 
 大きな桃色リボンを頭に飾っているスケルちゃんが客間に飛び込んできた。肩には青鬼のカゲぽんが乗っている。
 カクカクカク―! スケルちゃんは飛び込んでくるや否や忙しく歯を鳴らし二人に何か伝えてきた。あかりには何を言っているのか分からないが、ガイコツ語を理解できるネイリーは「何?!」と素っ頓狂な声を上げて瞠目。


「ふ、フロイラインが倒れた?!」

「ええ?! 風花さんがっ!」


 うんうんと頷くスケルちゃんに便乗し、『今ベッドで寝てるんだじぇ』とカゲぽんも大慌てで説明。
 
 曰くスケルちゃんとカゲぽんはトレーニングが終わったであろう風花のためにスポーツドリンクでも、と差し入れを届けに行ったのだが、地下の部屋で見たのは瓦礫で散らかった室内。倒れている風花の姿。それから戸惑っている二角獣のバイコーンの姿。
 風花のトレーニングに付き合っていたバイコーンは己の鼻先を彼女の体に押し付け、倒れている風花を揺すり起こそうとしているところだった。それを見たスケルちゃんは慌てて風花を運び、寝室のベッドに寝かせたと言うのだ。
 
 あかりとネイリーは顔を見合わせ、急いで風花の寝ているであろう寝室(今は風花の自室になっている)に駆け込んだ。




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あきゅろす。
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