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06-05


 

「フロイラインはとても気持ちの強い女性だからな。自分の出した案には責任を持って、力を取り戻す…いや前以上に力をつけようとしているのだろう」


 だが、この二ヶ月間、毎日のようにトレーニング、トレーニング、トレーニング三昧。
 彼女のこなしているトレーニング法は非常に過酷だ。僕でさえついていけない過酷なトレーニングを彼女は自分で決めてこなしている。

 きっと魔界にいた頃のトレーニング方式を取り入れているんだろうな。
 地下にいるバイコーンと日々体を動かしているようだし。睡眠と食事と入浴を抜かせば、大半トレーニングに時間を費やしている。僕が仕事に出掛けている間、スケルくんがフロイラインの様子を見守ってくれているが殆ど体を動かしているそうだ。

 さすがは北風の悪魔。あれほど過酷なトレーニングをしていれば“魔界の三妖女”と名が入るのも納得だ。しかし少しは休ませなければ心身が持たない。


 一日二日で良い。


 リフレッシュできる時間が彼女には必要だ。なんというか…、今のフロイラインは何かと気を張っている。
 僕だって仕事の合間に女性と会話…ゴッホン。ちょっとした休息を取り入れているというのに。フロイラインは無休だ。菜月からフロイラインはとてもテレビっ子だと話を聞いていたが、今はその娯楽でさえ手に出そうとしていない。
  
 焦りの気持ちを紛らわすために体を動かしているとは思うのだよ。
 恋敵のいばらくんはもう聖界に行っているかもしれない。自分は何をしているのだ。毎日のように体を鍛えるだけではないか。
 そういった焦燥感を霧散するため、彼女はきっと体を動かしているんだろうな。早く有力な情報を手に入れて彼女を安心させてやりたいのだが、ウム、人生そう簡単には上手くいかないというか、なかなか…な。
 
「フロイラインの焦る気持ちは分かる。僕も日に日に焦りが募っていくのだよ」
「お二人を見ていたら分かります。何だか、焦ってるなって」


「やはり分かるかね? すまないな。それによってまた気を遣わせているんじゃ」

「いえ、そんなことないですよ! ただ…、お二人とも無理してる感が漂ってます。一刻も早く聖界に行きたいって気持ちが全面的に出ているというか。特に風花さんはそれが強いですから」
 
 
 ドンッ! ドドンッ! ポフッ―。

 ソファーに座っていた二人の体は宙に浮き、重力に従って沈む。
 ネイリーは器用にあかりの分の紅茶をカップに注ぎ手渡し。「ありがとうございます」礼を口にし、あかりはソーサーごとカップを受け取った。零れないよう注意しながら口に運び、それをテーブルの上に置く。

「ネイリーさんも少しは息抜きをして下さいね。私から見ればネイリーさんも十二分に無理してる感が漂ってますから」
「そんなことないぞ。ちょくちょくだが休憩を取っているつもりだ。少なくともフロイラインよりはな」
 
 「傍から見ればそうでもないんです」ビスケットを二枚手に取ると、一枚を吸血鬼に渡す。
 

「ネイリーさんってカッコつけですからね。実は誰よりも働いてるんじゃないですか? 風花さん、言ってましたよ。スーツの下は生傷だらけだって。仕事とトレーニングを両立させてるんでしょ?」

 
 少女の言葉に瞠目。
 何度目かの瞬き後、吸血鬼はフッと表情を崩す。差し出されたビスケットを受け取り、「あかりくんには敵わないな」笑声を漏らした。


「君はよく僕等を見てくれている。ほんとに敵わない」
 

 「いえ、私は!」二人のようにトレーニングなどする必要性も無いし、聖界に行くわけでもない(連れて行ってもらえない)。情報収集の手伝いができるわけでもない。こうやって話し相手になり、仕事に関することを忘れさせてやることしか。傍にいることしかできないから。
 よく見ているというのは傍にいることしかできないからこそ見ているわけで。
 あたふたと言葉を口にしても吸血鬼の表情は柔らかいまま。サクッとビスケットに齧り、言の葉を重ねる。
 

「自ら進んで僕等の傍にいてくれるからこそ、君は僕等以上に僕等のことを分かってくれているのかもしれないな。それは君の優しさであり、大きな強さでもあるんじゃないかと僕は思う。あかりくんはきっと素敵な女性になるぞ」


 吸血鬼の言の葉に不覚にも照れた。頬に熱が集まる。
 こうして時々不意を突くようなことを言ってくるから(しかも素で)、吸血鬼の性格は厄介なのだ。あしらえばいいのか、恥ずかしがればいいのか。嗚呼もう、こういった対応にはつくづく困ってしまう!
 そりゃネイリーにとっては子供を褒めるような気持ちで言ったのだろうけれど。照れるものは照れる。―…子供を褒めるような気持ち、やや癪に障る。




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