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05-24


  

 それにしても本当のところはまだ憎んでいる、か。


 菜月は知っていた。二人が自分を心の底からもう、憎んでいないことを。自分と心から家族に戻りたいということを、十二分に知っている。少し前ならば彼等の気持ちに猜疑心を抱いていただろう。
 けれど二人の『今』の姿を沢山見てきた。今なら十二分に信じられる。彼等が自分を憎んでいないという気持ち、十二分に。
 
 「あなた方も憎まれているのではなくって?」紫乃の問い掛けに二人は言葉を詰まらせていた。反論できないようだ。
 途端に紫乃は笑声を上げ、勝ち誇ったようにおーっほほほ! おーっほほほ! おーっほほほっ、ケホッケホ。ケホン!

 彼女はやや間抜けなことに笑い過ぎて咽ていた。
 本当にズケズケと人の触れられたくない所を突っついてくる人だな。ある意味その精神に感服だ、そう思いながら紫乃を見つめていると彼女がこちらを見てきた。やや間を置いて彼女は自分が何者かを察したのだろう。

 「これはこれは」と自分に嫌味ったらしく笑ってくる。


「もしかして貴方が噂の異例子さんではなくって? 顔を隠しているようですけど、貴方は監視の身の上と風の噂でお聞き致しましたわ。貴方が異例子ならば、そこに聖保安部隊がいるのも納得ですわ。それに不肖の臭いがプンプンですもの。おーっほほほ!」

 
 嗚呼、絡まれてしまった! どうしようか、大変有り難迷惑なことに絡まれてしまったが、無視するべきなのだろうか、それとも絡んでやるべきなのだろうか。反論するのもメンドクサイがこういうタイプの対処法、確か風花に教えてもらった。

 あれは人間界で風花とアニメを見ていた時のこと。
 
 風花に誘われて一緒にアニメを見ていたのだが、そのアニメにこういった漫画のようなキャラクターの嫌味ったらしいお嬢さまが出てくる場面があった。
 それを見た瞬間、風花は「あいつムカつく!」と腹を立て、こういった女に言い寄られたらどうすれば良いか分かるかと質問を投げ掛けられた。当然分かるはずも無く(だって言い寄られたこと自体無いのだから)、分からないと答えた。

 すると風花が懇切丁寧に対処法を教えてくれた。

『いーい、菜月。ああいったタイプは自分がイッチバンだと思ってるわけ。だから褒めを口にしつつ、嫌味をチクリチクリと垂れて、お嬢さま気取りを演じてやれば撃退できるんだって』

『えー。褒めを口にしつつ、嫌味を垂れつつ、お嬢さま気取り? そんな器用なことできるの?』

『できる! あたしの言うことを復唱してみろよ? いくよ? さん、はい―!』
 
  
「―…そういう貴方さまの家柄はとてもお金持ちのように見えますが、きっと可愛がられて育てられたんでしょうね。ええ、可愛らしさが性格に出ています。感服ですよ。恐れ入ります。俺も是非ともお金持ちになりたかったです。そうすれば貴方さまのような素敵で無敵な性格になれたかと、おほほほ」

 
「んまッ! なんて小憎たらしい子ですの!」

「おほほほ。可愛い性格ですから自信を持って良い思います。ただ甲高い笑いは下品だと思うので止めた方が良いかと思いますよ、おほほほ」


 「正直に言い過ぎました。ごめんあそばせ」菜月はわざわざ口調を真似し、口元に手を沿え、おほほほ、おほほほ、おほほほ、と笑って見せた。
 やや引き攣り笑いになっていたが菜月本人は精一杯、銀色の悪魔の教えてもらったとおり褒めと嫌味を両立させ、お嬢さま気取りを演じたつもりだった。
 
 果たしてこれで良かったのだろうか、これが撃退に繋がるのだろうか。

 菜月は疑問に思って仕方が無かったがとにかく演じ切ってみせた。相手の顔色が見る見るうちにトマトのように真っ赤になっていくが、ついでに形相も恐くなっていくが、菜月は引き攣りながら、おほほほ。おほほほ。おほほほ。




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