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05-14



 あんまりな注意に菜月は「子供じゃない」とポツリ。
 「ガキだろ?」何を言ってるんだ、とばかりに呆れ溜息をつく螺月は弟を引き摺って受付をしている姉の下へと向かう。受付を済ませた柚蘭は財布を取り出し、受付の天使達に料金を支払っているところだった。
 
 ゲートを通った後、菜月は料金がいるのかと姉に尋ねる。肯定の返事を返した柚蘭は「もうすぐ発動する時間よ」と懐中時計を取り出し時刻を確認。小走りになる。遅れて菜月も兄と共に小走り。
 テレポーテーション塔は東西南北区に行く際、各々の大部屋に召喚されている魔法陣を使って飛んで行くのだが発動時間が決まっているのだ。バスや電車と同じように受付に時刻表が置いてあった。

 螺旋階段を駆け上り、菜月は兄姉の後を追い駆ける。 

 ひとつの吹き抜けの大部屋の前には案内人の女聖人が立っていた。


「発動2分前でございます」


 呼び掛けに間に合ったと一行は安堵の息をついて大部屋に入る。
 大部屋には巨大な魔法陣が召喚されていた。目分量だが、部屋にはざっと五百人は入れるだろう。自室に召喚されている魔法陣とは比べ物にならないほどの大きな魔法陣が神々しく光り輝いている。
 既に部屋には天使や聖人が、今か今かと魔法陣の発動を待っている。皆、中央区に行く者達なのだろう。休日とあって家族連れやカップルが多い。

 極力顔を見られないよう注意を払いながら、菜月は大部屋を見渡す。
 高い高い天井と壁のない吹き抜けの大部屋。ステンドグラス越しからは日差しが射すため、床はカラフルに彩られていた。呆気に取られているとグルッと周りに光の格子が現れる。


「発動10秒前でございます」


 9、8、7、6、カウントを取る案内人の女聖人がテレポーテーションする乗客に呼び掛ける。
 銀に発光する魔法陣は大きな風を起こし、それを吸い込むように中心に風を集める。眩い光が部屋を満たした瞬間、菜月は浮遊感を感じた。


 一瞬のことだった。


 よろめく菜月を余所に、光の格子は消え、中にいた者達は着いたとばかりに部屋から出始める。

 もしかしてテレポーテーションが終わったのだろうか。
 呆ける菜月に柚蘭が行きましょうと声を掛けてきた。本当にテレポーテーションは終わってしまったようだ。何が何だか分からない内に終わってしまったな。菜月は本当に中央区に着いたのかと半信半疑だった。
 
 しかしテレポーテーション塔を出て確信。此処は中央区なのだと感嘆の声を上げた。

 目前に広がる西区以上の活気ある商店街。
 出店ばかりならぶ西区と違い、中央区は個々に店が建っている。勿論出店も並んでいるのだが、その店々も西区で並ぶ出店よりも大きい。民に時刻を知らせてくれる時計塔も西区よりも大きく立派だ。
 
 「これが中央区」菜月はレンガの段を飛び下りて、周囲をグルッと見渡す。

 商店街の一角にユニーンたちが乗せられている大きな竜車(※竜車とは竜が荷台を引く車のこと)を見つけた。先ほどのユニコーン象など比べ物にならない貫禄と風貌だ。純白のたてがみと鋭く長い角。凛とすましているユニコーンの姿は文字通り優美。馬は見たことあるけれど、ユニコーンは初めて生で見た。
 熱心に竜車を見つめていると、向こうで竜車の手綱を調節している主人であろう天使が自分の視線に気付く。あ、まずい、慌てて視線を逸らそうとした矢先、「坊主」天使が自分をおいでおいでと手招き。

 嗚呼…やってしまった、一般の天使に声を掛けられてしまった。極力、接触しないよう心積もりはしていたのに。
 どうしよう、このままスルーするしか…、「菜月。行きましょう」笑声交じりに柚蘭が背を押してくる。「へ?」でも、まずいんじゃないかと菜月は姉に視線を送る。もしも自分が異例子だとばれてしまったら、来て早々大パニックが生じてしまう。
 

 「鬼夜柚蘭」郡是も咎めに近い声を掛けてくるが、「すぐ終わるから大丈夫よ」柚蘭は気にせず末弟の背を押して、主人の下に歩んだ。


 自分を呼んでくれた主人は、「坊主。ユニコーン好きなんだろ?」触らせてやるよと、竜車の留め金の一部を外して扉を開ける。
 真っ白な体毛に包まれている獣が大地に降り立ち、菜月は思わず歓声。手綱を引いてくる主人が「可愛いだろ」と、ユニコーンのたてがみを撫でる。目で撫でてみろと促され、菜月は恐る恐る爪先立ちになってたてがみを撫でた。
 
 するとユニコーンの頭が此方を向き、甘えるように手の平に擦り寄ってくる。大きな角で相手を気付けぬよう、気遣いながら。
 「可愛い」動植物スキーの菜月はすっかり心奪われてしまった。ハートを散らしながら、何度もユニコーンのたてがみを撫でる菜月に主人が豪快に笑う。

「坊主、よっぽどユニコーンが好きなんだな。獰猛だといわれているユニコーンは人の心を見透かす力がある。お前さんの心にユニコーンは惹かれて甘えを見せたんだ。純粋な心がユニコーンは大好きだからな、お前さんのユニコーンを想う気持ちがこいつに伝わったんだろうよ」
 
「気持ちが…、そっか、君は賢いんだね」

 よしよしとたてがみを撫でると、ユニコーンが菜月の頬を舌で舐めた。
 くすぐったいと笑う菜月に、「おーおー随分好かれたな」主人は微笑ましそうに目尻を下げる。「良かったわね」柚蘭も微笑ましいと一笑。うん、菜月は笑顔を零して気が済むまでユニコーンに触れた。
 



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あきゅろす。
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