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夢見てた子供、不器用な人



 
「朔月が砂月の態度のことで謝ってた。砂月も悪い奴じゃないんだ。許してやってくれな」

「うん。見た感じ、良い子そうだってのは分かった。俺こそ謝らないと、幼い砂月さんを怖がらせてしまったんだから。螺月、砂月さんに謝罪を…って、あれ。もしかして…あれが」

「そうよ、菜月。あれがテレポーテーション塔よ。あれから中央区に飛ぶの」

 
 朔月達と別れ、菜月は兄姉に連れられテレポーテーション塔に辿り着いたのだが、塔を前に唖然としていた。
 
 てっぺんが見えないとんがり頭の時計塔の隣に立つレンガ造りの塔。
 時計塔よりは小さいものの、テレポーテーション塔は聖堂並みに立派な造りをしていた。幼い頃も入った筈なのだが、こんなに立派な造りをしていただろうか。中に入ると大理石の床や柱、ユニコーンらしき像もちらほら見受けられる。天井を見上げれば常に描かれている絵が変化している。
 今は天使達が空に待っている絵だが、少し立つとひとりの天使に祈りを捧げる天使や聖人達の群衆の絵へと変わった。


「わぁ、まるで魔法みたいだ!」
 

 大きな声を上げる菜月に、「あ…阿呆」でかい声を出すんじゃないと螺月は注意した。

 今の菜月の発言、人間界で育ってきた弟にとっては普通かもしれないが、螺月達からしてみれば素っ頓狂な台詞である。なにせ、此処は魔法が文明に根付いている聖界。魔法が身近にあって当たり前なのである。だからこそ菜月の発言は目立つ。
 「気持ちは分かるが」もう少し声のトーンと、発言内容を考えて…、お小言を垂れようとした螺月だったが菜月の喜びように口を閉ざすことにした。こうして堂々と街中を歩くことも、テレポーテーション塔に入ることも無かった弟だ。好奇心を抱いて当然だろう。
 
 「凄い」変化する壁の模様に声音を上げる菜月に、螺月は苦笑を零した。
 ああやって少しでも聖界の文化に触れることで、少しは聖界を好きになってくれたらいいな。ずっと聖界に蔑まれていたのだから、完全に好きになることは無理だろうけれど、片隅一抹でもいいから生まれた郷国を好いて欲しい。

 と、「鬼夜螺月」郡是の溜息交じりの声。
 視線を流せば、彼は前方を指差してしっかり面倒看ろ、目立っていると注意。隣で千羽が必死に笑いを堪えている。
 
 慌てて、前方を見やれば、ユニコーン像に話し掛けている菜月の姿。
 
 「もしかして君、生きてるの?」目を爛々と輝かせて動くユニコーン像に話し掛けているものだから、螺月は見る見る羞恥を抱いた。多分弟のことだろうから、動くユニコーン像を見て、魔法で命を吹き込まれた像とでも思っているのだろう。
 だが、あれは単に魔法が掛かっている像。生きているわけがない。

 急いで菜月の下に駆け寄り、「馬鹿。さっさと来い!」襟首を引っ掴んで引き摺った。


「ったく、てめぇはっ…ちったぁおとなしくっ、って、おい!」

「床の模様も変化してる」


 螺月の手を逃れて、菜月はしゃがみ込み、綺麗に磨かれた床を覗く。
 反射して映る自分の姿と、万華鏡のように瞬く間に変わっていく床の模様。すっかり菜月は夢中になった。監視だらけの生活は自分でも気付かないうちにストレスになっていたようで、こういった新鮮な光景を目の当たりにすると心が自然と弾み和む。

 興味津々に床を見つめて、つるつるとしたそれの表面を触っていると、「この阿呆っ!」螺月に襟首を勢いよく掴まれ引き摺られた。

 「なんだよ」恥ずかしそうに顔を顰めている兄に首を傾げていたが、クスクスと受付の天使達に笑われていることに気付き、菜月は自分がまんま子供のようなことをしていたのだと状況を知る。
 傍から見れば非常に田舎くさい、または子供染みたことをしている奴だと思われたことだろう。お目付けの千羽からは盛大に笑われる始末。
 とんだ失態だと羞恥を噛み締めていると、「あんなところに座り込みやがって」しかも像に話し掛けるとか…、螺月に盛大な悪態を吐かれた。ぐうの音も出ない。
 

「いいか菜月。こういう公共の場では人さまの迷惑に掛かるようなことをしちゃいけねぇ。めっ、だぞ、めっ」
 

 ………。

 だからってその注意法は如何なものかと思いますが…、螺月さん。




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