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06-21


 
「ふふっ、当てたってことは君は運がいいんだね。そっちのチビ助くんはどうかな?」

「なんだよアンタ! 初対面の人間にめっちゃ失礼だぞ! ケイさんっ、ちょっち俺っち喧嘩してきてもいいっスか!」

「き、キヨタ。落ち着けってっ。あんなの嫌味にも入らないぞ! 毒舌の波子を思い出せ、あいつの毒に比べたら全然だろ!」

「だぁああってぇええ!」

 だぁああってぇええじゃあーりません、我慢しなさい!
 突進していきそうなキヨタを羽交い絞めにしていると(暴れるなって。お前の方が力強いんだから!)、そいつは小さく笑声を漏らして硬貨を親指へ。手早く指で弾いてきた。
 
 キヨタは俺の手から抜け出すと、大きく放物線を描く硬貨をキャッチするために足を踏み出す。見事に両手でキャッチしたキヨタに、「裏」そいつは硬貨の面を指摘。
 手を広げたキヨタはムッスリと顔を顰めて、「ビンゴッス」忌々しそうに鼻を鳴らした。
 
 軽く笑い返すそいつは、「あげるよ」お守りにでもしてくれと片手を挙げて電柱から背を離した。
 イラナイと突っ返すキヨタだけど、人の好意は有り難く受け取れなんて恩着せがましいことをのたまう。カッチンくるキヨタとそれをどうどうと宥めている俺に、キャツは含みある笑みを浮かべてそれはきっと役立つよ、と指差してくる。
 

 役に立つ?
 
 なに、通貨まで今日の日本国はグローバル化したのか? だったらドル札をお目にしても良い頃なんだけどな。
 

 大体25セントって日本円にするとハウマッチ?
 ……あー、確か1ドルが百円位だろ? だったら50セントは50円、25セントは…、やっぱ25円か? 何が買えるんだよ、25円で。近くに駄菓子屋はないぞ! んでもってこのお金を持っていても商品は売ってくれないだろーよ。
 換金所とかないし、25セント硬貨が一体何に役立つんだ? イミフなんだけど。

 貰っても困るものを受け取ったキヨタは相手に投げ返そうとする。
 刹那、俺達に背を向けて歩き出すそいつは振り返って、


「25セント硬貨は幸にも不幸にもなる」

意味深に口角をつり上げた。
 目を点にする俺とキヨタを余所に、目を細めてニンマリ笑ってくるそいつ。俺は反射的に足を一歩引いた。
 
 なんだ、なんだなんだなんだ。
 このゾクゾクッと背筋に悪寒が走ったのは、一体。

「幸運25セント硬貨。そういう題名の小説があるんだけどね。君達の持たせた25セント硬貨は、果たして幸を呼ぶか不幸を呼ぶか。楽しみだね。ちなみに僕は裏面になることを予測しているよ」

 いや予測じゃなくてこれは予言だね、君達はきっと硬貨の裏面になる。
 「硬貨は嘘をつかないからね」気を付けるんだよ、そいつはアクある笑みを残して今度こそ去って行く。

 呆気取られていた俺とキヨタはおずおずと顔を見合わせ、次いで硬貨に目を落とした。
 「意味分かったか?」俺馬鹿だから分からなかったんだけど、そう白状すると、「実は俺っちも」半分も理解できなかったとポツリ。良かった、俺の理解力の問題じゃなかったのか。変な奴に絡まれちまったけど、結局なんだったんだろう。
 
 言いたいことだけ言って消えちまった名無しの権兵衛に混乱しつつ、俺とキヨタは歩みを再開する。


「変な奴でしたね、あいつ。喧嘩売ってきてたんでしょうか? ケイさん?」

 
 チリン、チリン、チリン、キヨタは指で弾き宙に投げる硬貨をキャッチ。

 
 同じ動作を繰り返して、「あいつ」何が言いたかったんでしょうね、改めて言葉の意味を俺に尋ねてくる。
 三人寄れば文殊の知恵って言うけど、一人欠けているせいか、あるいはオツムの小さい俺達に問題があるせいか、まったく意味の理解が出来ない。小難しい言い回しはまるで挑発のようにも捉えられたけど。




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あきゅろす。
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