03-10
動こうとしない俺に焦れたモトは勢いのままキヨタにそこを退けと一喝。
剣幕に負けたキヨタは反射的に「はいッス!」と返事して、そそくさと席移動。ちょ、行かないでくれよっ、愛すべき弟分! ブラザー、カムバーック! こいつが隣に来るとかチョー嫌でめんどくさっ…、来たし。
容赦ない拳骨を落としてくるモトは俺の耳を引っ張って自分の方に体を向けさせた後、ムッスリ顔で制服を着崩し始めた。
イ゛ッテー、お前、先輩に対しての行為じゃない。全然加減してくれてねぇだろ。ガチ痛い。
「邪魔」ポイっとネクタイを俺に放ってくるモトは、それ付けるの禁止だと指差してくる。
えー…、これ付けないと服装違反じゃんかよ。
俺の訴えに空手チョップが落ちてきた。アウチ…、痛いんだぜ。
じゃ、じゃあせめてシャツのボタンは勘弁してくれても、なんか開襟するの変な感じだし。控えめに訴えに言えばモトの軽い肘鉄砲。軽いながらも鳩尾を突いてくるもんだから、俺は痛いと呻き声を上げる。却下らしい。
なんだよ、前まで全然この服装で口出さなかったっていうのに…、そんなにピアスと真面目服装はミスマッチなのか?
ピアスなんてちょこーんと耳に穴があけて飾るだけだろ? ちっちゃい装身具のせいで全体像が大幅イメージダウンっての、そうはないと思うんだけど。
どーせ元々荒川の舎弟って時点で良いイメージではなかったし、服装その他諸々で悪く言われるの慣れてるし。ヨウのイメージがダウンするってわけでもないし。悔しいって思ってくれるのは嬉しいけど。
ポリポリ頬を掻いていると、「アンタにさ」三拍呼吸を置いて、モトが視線の焦点を俺に定めた。そっと声を窄めてくる。
「昔、裏切り者発言したこと、憶えてるか? オレが感情に任せて言った、あれ」
裏切り者発言…、なんてされたっけ?
ちょいと首を傾げて思い当たる節を脳内検索。
真っ先に引き出した記憶は、俺が日賀野の舎弟にされた時の日のこと。あんま自分でも思い出したくない苦い記憶だけど、モトが勢いに任せて言うとしたらこの事件だろう。実質裏切りそうになったわけだし…、利二が止めてくれなかったらどうなっていたことやら。
あの時は俺、利二や自分のことで手一杯だったから、モトがそんなことを言ったのか全然記憶にないんだけど。
「俺が裏切り未遂を犯したあれか?」問いに、「未遂でもなんでもないだろ」あれはただの恐喝事件だった、裏切り未遂も何もない、モトが綺麗に訂正してくる。面食らう俺に、モトがボソボソッと低く小声で、だけどハッキリ告げた。
「噂じゃ狡いとか卑怯者だとか言われてるけど、アンタ、ちっとも違うよな。体張ってヤマトさんの舎弟、一蹴した男だしさ。あん時、安易にアンタに罵ったオレをぶっ飛ばしたいくらい、アンタ、真っ直ぐだよ。悔しいけど、カッコつけてばっかの行動で、オレ、見返されちまったし」
「モト…、急にどうしたんだよ」
困惑交じりの笑みを浮かべれば、垢抜けた笑みを浮かべてモトが目尻を下げる。
「馬鹿げた発言をしたオレを見返したみたいに、今度は周囲を見返して欲しい。そんだけの話。ヨウさんもそうだけど、アンタやキヨタ、皆をひっくるめてオレの居場所だし」
―…なあケイ、オレと約束しろよ。
有ること無いことの噂を鵜呑みにしてる奴等を見返すって。ワルで見返すって。それができなくても、せめて何かあったらオレ等に頼るって。アンタって何かあればいつもヨウさんばっかだ。
けど、他の奴等だって頼れると思うぜ? どっかの誰かさんは、その現状に寂しいって陰で嘆いてるんだし。
「ほら、これで良い。もうダサい恰好すんなよ? これも約束だぞ」
肩を叩いてくるモトを一瞥。ダラりんダラしなくなった制服を流し目にした後、視線を戻して、「分かった。約束するよ」俺は一笑を零す。
こんなにも過大評価されちまって持ち上げられちまったら、約束をせざるを得ないだろ? 却下するとかダッサイじゃんか。
それに恰好や見返すってのは無理だとしても、一つだけ絶対に約束できそうだ。
他の仲間に変な一線を引かないって、その約束は。
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