03-18 「つまりこういうことだぜ、ヨウ」 ケイの土地勘を持っての戦術は文字通り、地を攻める戦術。どの道で行けば最短ルートか、どの道を塞げば相手が不利になるか、各々道を使って戦術を立てるもの。一方楠本の土地勘は、地を使う戦術。どの土地を使えば、喧嘩に勝てるか、相手を追い込めるか計算して戦術を立てるものってわけだ。奇襲を掛ける際、より身を隠せそうな、相手が油断しそうな場所を選んで攻めるってわけだな。 ということは、だ。 これまでケイの土地勘を頼っていた俺サマ等だが、奇襲バッカ仕掛けてくる楠本相手じゃあ、この戦法は使えねぇよな。だって相手が何処にいるか分からないわけだし、地を攻める戦術ってのは相手の居場所がある程度分かってから使うものだから。 荒川チームお得意の地を攻める戦術は今回無効ってわけだ。まったく使えないってわけじゃないとは思うが、今までみてぇにあれや抜け道を使おうだの、これや裏道を塞ぐだのは無理ってことだ。OK? 「おいマジかよ」 引き攣り顔を作るヨウに、申し訳ないけど追い討ちを掛ける。 「それになヨウ。楠本と俺とじゃ土地勘に差があるんだ」 俺の土地勘が優れている理由はチャリで地元を駆け巡っていたから。そうだな、最短ルートを見つけ出すカーナビのようなもんだ。 反面、楠本はその足で街を彷徨っていた。必然と道を頭にインプットしていっただろうし、それこそチャリでは行けないような場所まで、知り尽くしてるんじゃないかと思う。道なき道まで知り尽くしてるって言えばいいのかな。 さっき襲われた組が瞬く間に姿を晦ましちまったって言ってたけど、それはきっと楠本の土地勘がいかんなく発揮されたが故のもの。民家と民家の間に隔たっている塀を使って逃げちまったかもしれないし、どっかの建物に逃げ込んで身を潜めちまったのかもしれないし。 ヨウ、俺の土地勘はあくまで“道”がメインだ。楠本の土地勘とは種類が違うし、今回ばっかりはあんまり使えそうに無い。 「参ったのは楠本の土地勘は俺の知らない抜け道まで知ってそうだってこと。完全に奇襲向けだよ、こいつ。伊達に野良不良をしてないっつーかさ。こいつは俺よりも土地勘が優れている」 「ふぁ〜…、これは参ったな…、ヨウ」 欠伸を噛み締めるシズはかったるそうに頬を掻いてリーダーに流し目。 「楠本は真正面から喧嘩をする気なんかなかけんね」 九州弁になる涼さんも、さてこれからどうしようとヨウに視線を投げた。 お手上げだとばかりにビリヤード台に腰掛けるヨウは、「俺は直球型だからな」こういったひん曲がった戦法の対処は思いつかんと投げやりに吐露。そこで頭脳派達に意見を求めるわけだ。 それまでダンマリ聞いていた響子さんは喫煙をしつつ地図を眺めて、ゆっくり紫煙を吐く。 「目には目を、歯には歯を、だなこりゃ。その手しかねぇと思うぜ」 というと? 野郎共の視線を一身に浴びながら、彼女はフロンズレッドの髪を弄くり、平坦に答えた。 目には目を歯に歯を、だったら奇襲には奇襲を、だと肩を竦める。謂わば“五十嵐戦法”でいこうじゃないかと彼女は言うのだ。奴が以前、俺達に『漁夫の利』返し戦法を取ったように、こっちも奇襲返しを取るしかない。 簡単にいえば、楠本にヤられる前に俺達がヤっちまおうぜ作戦。 ははっ、単純明確且つ物騒な戦法だな、おい。 だけどその戦法は相手が何処にいるか、分かった上での戦法じゃ…、俺の疑問に響子さんは「オトリを使う」これまた大胆なことを言い出した。 「奇襲を掛けてきそうな場所に仲間を送り込む。んで、奇襲を掛けられそうになった仲間を助ける奇襲返し組が出てきて、返り討ち。これしかなくねぇか?」 「…確かに…、だが響子…、奇襲を掛けてきそうな場所なんてそうは…分からない…、不良の足取り…も掴めていないぞ?」 [*前へ][次へ#] [戻る] |