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03-05


   

 だってそれだけ俺っちにとって兄分、大切なんっスから。


 キヨタの声に感情が篭った気がした。なんだか少しだけ素の心に触れられた気がして、俺は目を細める。でもってすぐに視線を逸らし、「そっか」相槌を打った。ちょいと間を置いた後、「俺さ思うんだ」自分の心の弱さを少しだけ口にすることにした。

  
「居場所って人を変える。楠本もそうだっただろうし、俺だってヨウの舎弟になってから変わった。不良の見方も変わったし、話してみれば気さくで良い奴等も沢山いるんだって分かった。だから今の居場所は俺にとって大事だ」


 ―…だけど大事ゆえに思うことがある。此処にいていいのかって。
 時々分からなくなる時があるんだ。なんっつーのかな、俺って中途半端にワルで、中途半端に真面目だからさ。どっかで怯えてる、半端者に居場所はあるのか。ってさ。

 弱い俺の面にキヨタは真顔で答える。「ケイさんは皆を過小評価してますよ」と。

「ケイさん、俺っちは貴方を半端者と思ったことはありませんよ。チームの皆だってそうっス」

 身形でうんぬん言うんだったら、とっくに見切ってるっス。チームから追い出してると思いますっス。貴方が思うほど、気にしてないんっスよ皆。俺っちは貴方の心に男を感じて、こうして弟分をしてるんっス。
 ケイさん、もうちょっと皆を信じてあげたらどうっスか? そうやって一線引いて考え込むの、ケイさんの短所だと思いますっス。


「って、あ、ちょっと言い過ぎたっス。すみません」


 慌てて謝罪してくるキヨタに、「なんで謝るんだ?」俺は笑って弟分の肩に手を置いた。
 そうやって言ってくれると俺も助かる、頬を崩して礼を告げる。お前に言って良かった、気分がちょい浮上したよ、と。

「悪いなキヨタ、こんな話して。俺、こう見えてちっちゃいことで気にするタイプだから。でもお前の意見、聞けて良かったよ。そうだな、もう少し、皆を信じないとな」

「ケイさん…」

「なんだよ、そんな顔するなって。そうやってズバッて言っても良いんだ。お前は俺の弟分なんだから、気ィ遣う必要もないよ」

 嫌ったり怒るわけないだろ、頭を小突けばキヨタはこれまたたっぷり間を置いて質問をしてきた。
 ケイさんはもし俺っちがヤられたり、消えちまったり、それこそ楠本のようになっちまったら、どうしてくれますか? って。

「や、その時は別に他の弟分を作ってもいいんっスけどね」

 やや不安の色を瞳に宿すキヨタに俺は強く返した。
 「ヤられちまったら」ヤり返すくらいの力をつける、「消えちまったら」町中血眼になってお前を探す、「それでも見つからなかったら」俺は二度と弟分を作らない、そう弟分に返した。
 
 
「俺の弟分はキヨタだけだ。お前がもし、何らかの理由で消えちまって、見つからなかったら…、俺はお前の帰りを待つ。いつまでも待ってやる。絶対に他の弟分なんて作ってやんない。―…俺はいつか、弟分を舎弟にするって決めてるんだから」
 
  
 「え?」立ち止まるキヨタの前を歩いて、「なんだってやってやるさ」俺は振り返らず、歩みを止めず、弟分に伝えた。もしものことがあれば、兄分として幾らでも努力するし、消えたらいつまでも弟分の帰りを待つ、と。
 カッコつけて言っちまったら最後、俺はそれを実行せざるを得ない。じゃないとカッコ悪いだろ?
 くっそう、お前のせいだぞキヨタ。こんなこと言わせやがって…、俺って調子乗りの見栄っ張りだから、カッコつけたがるんだよ。


「俺の言葉に、なんか文句あるか? キヨタ」


 いつまでもついて来ない弟分に振り返り、目尻を下げる。
 
 軽く袖で目を擦った後、「ないっス!」キヨタは満面の笑顔で俺の背中を追って来た。
 やっぱり俺とキヨタには不足してるんだな、スキンシップやコミュニケーションがさ。じゃないとキヨタがこんなに不安がってるかよ。ああもう、ヘタレな兄分で悪いな、キヨタ。もう少しだけ俺に時間くれよな。俺自身も覚悟とか心構えとか、そういうの出来上がってないんだ。いつも一生懸命俺を慕ってきてるお前の気持ちに、生半可な気持ちは抱きたくないんだ。

 取り敢えず、


「キヨタ。今度俺の家に泊まりに来いよ。遊ぼう」

「け、ケイさんの家に?! いいんっスかっ! 俺っ、行くッス行きたいッス! 前から行きたいって思ってたんっスよ、ケイさんの家! 泊りとか超感激っス!」

 
 はしゃぎまくるキヨタは最高潮テンションで、ケイさんに一生ついて行きますっス! 飛びついてきた。
 ったくもう、俺は女の子に飛びつかれたいっつーの。なんて思いながらも、ポンポンッとキヨタの頭を軽く叩いてその気持ちを受け取った。

 まずはキヨタと、もう少し話す時間を設けないとな。
 ヨウが俺との一線を飛び越えてくれたように、俺もキヨタとの一線を飛び越えられるだけの兄分になりたい。そうカッコつけたい気持ちを抱いてもいいだろ? 俺だってキヨタの兄分になっちまってるんだ。たとえ、きっかけが成り行きでもさ。


 ああ、こう思うとやっぱ…、キヨタ、俺の中で超大事かも。
 慕ってくれる奴を可愛くないとか思うわけないだろ?


 ―――…楠本を可愛がっていた榊原は、なんで舎弟を置いて姿を消しちまったんだろうな。今の俺には理解ができそうにないや。
 
 




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あきゅろす。
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