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02-20


  

「五反田って奴には、その警戒心…抱いといてな」


 声が不機嫌になっちまうのはキャツの腹黒い笑みを見ちまったせいだ。

 あんにゃろう、彼氏の前で「フリーだったら狙おうと〜」とか言っちゃいますか? 言っちゃいますかね?! くそ似非爽やか腹黒男めっ、サッカー部に所属しているんだか、日向男子なんだか、クラスの人気者なんだか知らないけど、ココロになんかしてみろ。ぶっ飛ばすぞマジで。
 からかい半分で言ったとしても、その気がなかったとしても、ぜぇえってあいつとは仲良くするもんかっ! ああしないね。気に食わない!

 思い出し不機嫌になる俺に、「ケイさん」嫉妬してるんですか? ココロがストレート質問アタック。
 ダッサイけど本当のことだからぶっきら棒に「ん」返事だけすることにした。俺だって嫉妬するんだよ。見知らぬ野郎が好きな子にあれやらこれやら言われたり、頭撫でられたりする光景を目の当たりにするとさ。
 早く青になんないかなー、ハンドルに持たれて頬杖ついた刹那、後ろからぎゅうううっとしがみ付かれた。
 
 え、あ、ナニっ、ちょ、ナニナニナニっ、なんか、え? 抱き締めらてるカンジ? ま、街のど真ん中で?!
 

「あ。あの、ココロさん?」

「拗ねてる…ケイさんが可愛く思えたので、…つ…、つい」

 
 首を捻って彼女と視線を合わせると、ポッポと顔を火照らせているココロがいた。
 か、可愛いとか男の子に向かって言うもんじゃアーリマセンよココロ。男の子はな、カッコイイって呼ばれたい生き物なんだよ。なのにっ、ッアーもう、勘弁してくれって。子供染みた嫉妬してごめんっぽ。
 
 信号が青に変わる。俺はペダルを踏んでチャリを前進させた。
 一切会話が飛び交わなくなっちまった俺等は、たむろ場に戻るまで一単語も発することができず。澄んだ青空の下で倉庫裏にチャリを置き鍵を掛けた俺は、彼女の鞄を持ってようやく「中に入ろうか」と言葉を搾り出すことに成功する。

 こっくり頷いてくれるココロだけど、俺が先導に立って歩み出せば、後ろからギュッとブレザーを掴まれた。必然と歩みが止まる。振り返ることも出来ず、頬を掻く俺は後ろから漂ってくる空気を肌で感じて目を泳がせた。
 

 ふっと俺は彼女からブレザーを放させる。

 
 空気に陰りを差したけど、振り返らないまま俺は引こうとする彼女の手を掴んで軽く握った。なんだか足りないから、やっぱ振り返ることにする。彼女の顔を見ず、やんわりとその体躯を腕に閉じ込めた。ココロの匂いが鼻腔を擽って、つい安心してしまう。
 キャツが馴れ馴れしく撫でた、その頭を撫でて俺は呟く。「気持ちを疑ったわけじゃないから」と。「単に俺が嫉妬して拗ねていただけだから」と。
 
 彼女の欲しい言葉を啄ばんでやると、ココロはうんっと嬉しそうに一笑。背中に手を回してきた。
 ふっとした拍子にネガティブになりやすい彼女だから、人三倍、言葉と行動にしてやらないといけない。こっちが恥ずかしい思いするんだけど、でも良いんだ。小っ恥ずかしい気持ちなんて些少の問題。ココロが笑ってくれれば、それでいいや。
 
 でもちょい俺の言い分も聞いて欲しいわけで。
 
 「あんま知らない男に」触らせないでくれよ…、本音をポロッと零す。ある程度のスキンシップは我慢できても、例えばそれは見知り男限定。ヨウやハジメが仮にココロの頭を撫でたりしても、まあ我慢できる。あくまで“まあ”の範囲だけど。
 それが俺の知らない男に触られたりしてみろ。チョー腹立たしく嫉妬するんだって。五反田の爽やか腹黒さも見せ付けられたし、尚更嫉妬する。

 ちょいと脹れ面になる俺に、「ダイジョーブです」好きな人はひとりですもん、っとココロ。
 いや、そういう意味じゃないんだけど…、触らせないで欲しいって…、ああもういいや。あれこれ言っても俺がダサくなるだけだし。


「ケイさんも、もうちょっと…、う゛ー…、構って下さいね?」


 すぐに喧嘩とか男友達ばっかりに行っちゃうんですもん、脹れ面返しを食らい、俺は了解だとばかりに微苦笑。
 それはさっき自省したばっかだ。これでも、もうちょいココロを優先しないと。って思ったんだぞ、俺。
 
 ジーッとココロに見つめられる。いつまでも見つめられるもんだから、俺は頬を崩して軽く彼女の前髪を掻き分けるとそこに唇を落とした。
 「むぅ」違うと唸る彼女に、分かっていたよと俺は悪戯っぽく笑う。ココロは期待して見つめてきてたんだよな。
 分かってるって、ちょっと意地悪したくなっただけなんだよ。今度こそちゃんとしてやるために、俺は彼女の頭を撫でた後、そのまま「よっ。荒川の舎弟! いちゃついてるとこ悪いけど荒川いるか?」
 
 
 ………、何事?


 ぎこちなく顔を上げて首を捻れば、金網フェンスの向こうに片手を挙げて気さくに話し掛けてくる不良一匹。背後に不良が三匹。
 
 声を掛けてきたのは協定を結んでいる浅倉さんだ。俺等の恋人空気を見事にぶち壊して、「荒川いるか?」と声を掛けてくる。
 その後ろで彼の舎弟・蓮さんが必死に両手を合わせて謝罪していた。邪魔してごめんと目で訴えてきている。
 同じく彼の舎弟・桔平さんは「フツー空気読んで声掛けませんって」と浅倉さんにツッコミ、「しかたがなか」九州弁を口にする涼さんはそれが我等がリーダーだと肩を竦めていた。

 繰り返し、浅倉さんが「なあいるか?」と声を掛けてくる中、俺とココロはイチャイチャモードを解除し、顔面赤面。
 まさか他者に、しかも複数にイチャモードを見られるなんて思ってもみなくって…。


 俺達はカッチンコッチンに固まってしまったのだった。





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