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02-12


  

 ああ畜生!

 なんで俺っ、ヨウと緊急戦闘モードに入らなきゃなんないんだよっ、ぜぇって負けるっつーの! いや敗北目前っ、逃げられる自信、これっぽっちもねぇ! 

 余所ではワタルさんとハジメが膝を叩いて面白おかしそうに笑声を上げている。助けては…、くれなさそうだ。
 くっそーっ、所詮お二人さんもそっち側の人間なんですねっ、ええいっ、此処に味方っ、俺の味方はいないのかっ! ……いるわけねぇよなっ、此処にいるの、俺とヨウとワタルさん、ハジメしかいねぇんだし。
 
 諦めるしかねぇって奴? 戦闘開始早々死亡フラグ? 田山オワタ?
 

「大丈夫だってケイ。俺、これでもハジメやモトのピアスホールを作ったんだ。帆奈美のも作ったんじゃなかったか? お手のもんだぜ」

「お、俺、死にたくない!」

「耳朶に穴あけられて死ぬかっつーの。大袈裟だぜ?」

「怖いんだって!」

「すーぐ終わる。瞬く間だぜ? ほら、じっとしろ」
 

 〜〜〜ッヨウっ…、ほんっと、お前、俺のことを思っての行動なんだろうな? いじめじゃねえよな、これッ、プツッ―。


 ………なあに、今の音?
 
 
 左のお耳にヤーな音が聞こえた。
 痛みはなかったんだけど、ゾッとしてするような音に俺は物の見事に石化。俺の表情に大爆笑のワタルさんとハジメ、「あっちゅう間だろ?」ヨウは終わったとばかりにピアッサーを宙に投げて、すかさずそれをキャッチする。
 
 一ヶ月でピアスホールが出来ると思う、アフターケアの仕方は後で教えてやるから延々、俺に何か言ってきてるんだけど、それどころじゃない。
 プツッて今、耳元で聞こえたけど、それってあれだろ。耳朶が貫通したってことだろ。ナニが貫通したのかも想像したくない、できない、思考停止でなあんも考えたくないっ。

 とか思ってる場合でもなく!
  
 「ちょぉおお兄貴ィイイイ!」ようやく息を吹き返した俺は嘘だろ、あけちまったのかよっと大絶叫。
 「おうよ」憎たらしいほど誇らしげに笑う舎兄は、もうピアスが刺さってるからとほざきやがりましたよ。この時点ではまだ信じられなかったんだけど、ヨウに持って来てもらった手鏡でお耳とご対面。悲鳴を上げる他なかった。

 ウゲぇえええッ!
 ま、マジでピアスがっ…、シルバーのボールピアスが刺さってやんの! ぶっすり俺の左耳朶に貫通してる! 目の錯覚とか…、ないよなっ、刺さっちまってるもん! そういう感触もあるもん!


「ガチで、ワルい子ちゃんになっちまったっ! どぉおおすんだよぉおおこれぇええ!」


 ががーんっとショックを受ける俺に傍観者はすっかり大笑い。
 涙を目尻に溜めて、煙草吸ってる時点でワルい子ちゃんだろ、とか、外見ワルデビューの一歩を踏み出せて良かったじゃないか、とか、膝を叩いて盛大にゲラゲラクスクスヒィヒィ。

 おいおいおい、そこっ!
 俺は真面目にショックを受けているんだぞ。地味少年をそんなにも笑ってもいいのかっ、ショックを受けているお友達は慰めるってのが道理だろーよ! 不良ったら人情がないんだな! いっちゃん人情がないのはっ、ヨウお前だ! なんってことをしてくれたんだよっ!

 鏡を持ったままブルブルに体を震わせて相手を睨むんだけど、向こうは平然と笑みを浮かべている。寧ろなんだか喜んでいる様子。
 「ファーストピアスはそれで我慢な」セカンドピアスはリングピアスにしたらいいっと、ヨウは頬を崩した。


「テメェはリングピアスが絶対似合うと思うぜ。俺のお下がりやっから、1ヶ月経ってピアスホールができたら付けな」
  

 ニッと笑みを向けられたら怒る気も毒づく気も失せる。なんかショックを受けてた俺が馬鹿みてぇじゃん。
 
 俺は鏡と再び睨めっこしてみる。左耳には室内の照明で煌いているシルバーのボールピアスがちょことんと顔を出していた。似合うか似合わないか問われたら、まあフツーなんじゃないかな? 似合ってないことはないと思うよ。特別似合ってるわけでもないけどさ。
 ピアスのせいでなんだか真面目な身形もちょい不真面目に見える。すっげぇワルイコトをした気分になるけど、どーしょうもねぇしな…、これ。あけちまったもんはしゃーない。

 取り敢えず感想として、「目立たないことを願うよ」苦笑いを零して肩を竦めてみせた。それしか返せる反応が思い付かなかったんだ。
   



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