02-11
麦茶を頂こうとしていた俺は、ヨウの手元が気になってついつい覗き込む。
確認できる前に、「ほれ」俺の手の平にハンカチを落としてきた。次いで、グラスに入っていた氷を二つそこに落とされる。三点リーダーをいつまでも出す俺は、「なにこれ」相手の意図が全然読めなくて首を傾げるしかない。
「素手だと濡れるだろうが」って言われるけど、いや、だからなんで俺が氷を持つ羽目に。
目を点にしていると、「こうしとけ」ハンカチに落とされた氷をしっかり持って左の耳をサンド。
冷たさに身を震わせる間もなく、「俺のお下がりになるけど別にいいだろ?」好きなの選べってお盆の上にバラバラと装身具を散らばせていく。ハジメやワタルさんが良いの持ってるじゃんか、とか言ってそれを手に持っていたけど、へーい、俺は状況が呑めないんだぜ兄貴。
なんでお前、俺に装身具改めピアスをくれようとしてるの? 俺、耳にお穴なんてあいていないんだけど。
……、まさか、お前が考えてるワルデビューって。
「最初は左な左。こういうのって俺はどうかと思うんだが…、男の場合、ピアスは左耳にしておかないと変な意味に取られることもある。
っつーのも、あんま日本じゃ知られていないんだが外国じゃピアスをするに当たって、左耳だけはノーマル。右耳だけはゲイ。両耳はバイセクシャルって意味があるらしい。勘違いされるらしいから、男は左耳にピアスが妥当なんだと。
俺はあんまこういうの信じねぇし、右につけようが左につけようが個人の自由だって思うんだが…、ま、取り敢えず左にしとこうな」
いやいやいや、そんなのほほんと説明されても…、根本的なところが問題なんだけど。
青褪めて、俺はぎこちなく舎兄に視線を流す。
そこにはピアッサーを持った悪魔一匹。ニッと満面の笑みを浮かべるヨウは、「すぐ終わるって」チクっとするだけだ、と俺の肩に手を置く。
まるでお注射を怖がる子供に言い聞かせる口振りだけど、ま、待ち待ちまちっ! 俺っ、ピアスホールなんてっ、作る気、これっぽっちもっ! こんなのしちまったら最後、風紀検査で毎度引っ掛かるじゃないかっ。教師に呼び出されて生徒指導をっ…、無理だムリムリムリムリ!
完全にチキンになっている俺は、やっぱワルデビューしなくていいと舎兄に直談判。
「髪染めじゃねえぞ?」全然目立たないじゃないか、とピアッサーを片手にニンマリニンマリ。た、愉しんでやがるこいつ!
心中で涙を呑みつつ、俺は必死にワルにならなくてもいいや、と愛想笑いを作って一応申し出てみる。即却下がくだった。慈悲がねぇでやんのこいつっ! 俺、泣いちまうぞ! 性別年齢関係なしに泣いちまうぞ!
ブンブンかぶりを振る俺は、「ピアスも目立つだろ!」こんなのしたら前橋になんて言われるか、超真面目ちゃん発言をしてみる。だから見返してやるんだろ、ほら諦めてヤっちまおうぜ、ヨウはガタブルの俺に脅しを掛けてくる。
こうなれば最後、俺とヨウの攻防戦が始まる。
無理だと嘆き、戦闘から逃げ出す俺の足首を掴んで引き戻すヨウは力づくで押さえ込んできた。がっちり首を左腕で締めてくる。ひ、卑怯だっ! お前の方が力あるんだから、負けるに決まってるじゃんかよ!
「ケーイ、俺に任せてワルの一歩を踏み出そうぜ。真面目なんてクソ食らえ、だろ? なあ? 煙草だって吸えちゃってるんだ。今更、ピアスに怖じてどーするよ」
ははっ、数時間前のヨウに毒づきたい。なあにが任せろ、だ。
んでもって、ははっ、数時間前の俺をど突きたい。なあんでこいつに任せてみようかな、とか思ったし!
ダラダラ千行の汗を流す俺は、「お…落ち着けってヨウ」暴力と強制は平和を生まないぞ、とジタバタ暴れてみせる。はい無意味、ヨウの方が強い。くそう、ンなこと分かってるんだよ、これでも舎弟してきたんだからっ、けど諦められるか!
ニヤリニヤリ笑ってる舎兄は「俺は落ち着いてるぜ」ケイが焦ってるだけだろ、軽くピアッサーをチラつかせてきた。
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