[携帯モード] [URL送信]
02-10


  
 
 そうのたまうハジメに、「ダイジョーブ」どっかの誰かさんじゃあるまいし抜けないよ、俺は目尻を下げた。

 バッカだなハジメ、俺は抜けられる筈ないんだ。
 どっぷりと不良の世界に肩まで浸かっちまった残念平凡不幸少年なんだから。今更抜けたくても抜けられないっつーの。抜けられるもんなら、俺はとっくに舎弟の名前を返上してジミニャーノ星に帰還してるぞ。薄情三人組と悠々地味にひっそり学園生活を送っているって。

 きっと、この世界を追い出されたらこれ以上にないってくらいヘコむ。それだけ俺の居場所になってるんだから。
 不良は苦手なのに、不良と一緒にいたいだなんて…、ったく、ヨウのせいだぞ、こんな風に俺を地味不良に導いちまったのは。
 
 正直噂や環境の変化に不安ばっかな毎日だった。
 
 本格的に良識ある生徒達から距離を置かれて、んでもって担任に“中途半端”って言われたから、「あれ…俺、あいつ等にまで距離を置かれたらどうしよう」とか、不安を抱いちまって。大丈夫だって言い聞かせてはいるけど…、ヨウは、ここ数日の俺の不安をずっと見抜いてたのかもな。
 なんだかんだ言っても、内心の俺は取り巻く環境に戸惑いっぱなし。ヘコみっぱなし。不安を感じっぱなしだったから。

 だからヨウ、ワルデビューさせるとか、担任を見返すとか言い出しちまって。


 ―――…ほんっと、あいつには敵わないよな。
 

「抜けたらあいつ、ぜぇって怒るから抜けないって。ま、抜けろって言われた日には、俺、日賀野の舎弟にでもなるよ。未だに向こう、勧誘してくるし。青メッシュでも入れて、向こうのボスとオソロにしてやる」


 ニヤッと二人に笑って短くなった煙草を銜え直す。揃って二人は笑声を上げた。


「うっはっ、ケイそれ最悪! ヤマトの舎弟になるとか、どんな昼ドラ展開! 修羅場が目に見えてウケるんだけど」
 
「しっかも俺、抜ける時にはココロとキヨタは絶対に連れて行くんで宜しく」

「ぶふっ、それじゃあ実家に帰るママさんじゃじゃじゃん! 修羅場確定! ちょ、言ってみてよーん。実家に帰りますって」
 

 丁度、ヨウがお盆を持って部屋に戻って来た。
 俺等の笑声が聞こえていたのか、「ナニ盛り上がってるんだ?」質問してくる。ほらほらほらぁ、期待した眼が二つ飛んでくるもんだから、俺は息をついた。お二人さん、調子ノリの俺がそんな期待に応えると思うか? さすがに俺だって空気を読んで、


「兄貴っ、どうして喧嘩ばかりするの。俺、貴方のことを敬愛していたのにっ…、毎日まいにち舎弟のことも考えず喧嘩ばかり。もういいわ、子供達を連れて実家に帰らせて頂きます!」


 ノっちまうだろコノヤロウ! 調子ノリを舐めるなよ! ノリノリでやっちまうぞ!
 噴出しそうになるワタルさんとハジメを余所に、ポカン顔を作っていたヨウは「ふざけんな!」前触れもなしに怒声を上げてきた。


「毎日のように喧嘩してるのはな、舎弟のためだっていつも言ってるだろうが。ちったぁ舎兄の気持ち、分かったらどうだ?」

「でも喧嘩ばかりで舎弟を見てくれないじゃない! こんな思いするくらいなら…、ひ、日賀野の舎弟になった方がマシよ」

「あーん? 今、なんっつった? あろうことか、俺を差し置いてヤマトのところに行く? そうかそうか、んじゃあ、そう思わせないようにしてやるよ。今晩は覚悟しとけ」


 「あ…兄貴怖い!」「誰がそうさせたよ」ギッと睨み合い、会話が途切れ、三秒くらい間。次いで爆笑二つ。最後にヨウが「で?」これはナニごっこだと俺に聞いてくる。
 よく状況も分かってないでノってくれたヨウ、マジスゲェー。馬鹿なノリをかます俺と会話を合わす兄貴、超尊敬。
 てか、ほんっとお前もノリ良くなったよな。女子が見たら昇天しちまうくらい、残念なノリ具合だぞ。折角のイケメン不良なのにな。良かったな、此処にいるの、野郎達だけで。
 
 ゲラゲラ笑ってくれるワタルさんとハジメは、やっぱり無二の相棒だと俺等を指差す。
 寧ろお笑いコンビでも結成すればいいんじゃないかって笑声を上げてくれたけど、ンー、お笑い界に行くつもりは毛頭ないぞ。お笑いの世界は超厳しいんだからな。ノリとお笑いは別個のものなんだぜ!
 
 「結局なんだったんだよ」ヨウの疑問に、「ちょいとした昼ドラの話さ」ハジメは微笑を向けて飲み物を提供してくれるよう手を差し出す。
 話題を切り替えてくれるハジメに俺は感謝した。さっきの話をほじくり返されても俺が決まり悪くなるだけだしな。フローリングにお盆を置くヨウは、自分で取れと憮然に告げてナニやら盆の上でごそごそ。




[*前へ][次へ#]

10/31ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!